七月の昼中、君を刻む

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「だからって何だよあの誘い方」 「廉士の記憶に残りたくなかった」 「は?」 「軽蔑された方が忘れてもらえるかと」 「訳わかんねぇ」  首にかかる熱い吐息にゾクリとする。心拍数は上がる一方だ。 「何を覚えて何を忘れるかは、お前が決めることじゃない。それに」  私を抱きしめる廉士の腕に、ぎゅっと力がこもる。 「もうとっくに手遅れなんだよ」  言いようのない気持ちが身体中に広がる。雫を落とした様にじわじわと波紋を描く。  胸が苦しいのは、きっと廉士の腕のせいだけじゃない。 「廉士」  私なんかがこんなことを告げるべきじゃないと頭の中で警告音が鳴り響く。だけどもう、壊れてしまった。夏の暑さと廉士の体温に包まれて、正しい判断ができない。  エアコンなんかじゃどうにもならないくらいに、身体の芯から全部が熱い。 「好き」  息を吐くように、一生伝えるはずのなかった気持ちが零れた。  想いを隠し通せなかった心臓が跳ねる。私の身体の中に収まるまいと抵抗するように暴れている。
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