59人が本棚に入れています
本棚に追加
「バカナかよ。珍しいな、いつも無視するくせに」
相手が私だとわかって廉士が目を細める。
私は笑えない。意図していなかった行動のその後なんて、まだ何も考えられていない。
ただ分かっているのは、今、強烈に廉士を欲しているということだけ。
「廉士行こうぜー」
廉士を呼ぶ声の主達が私に気付き、怪訝そうな顔をする。私の噂はどの学年にも知れ渡っているのだ。
やはり私たちは交わるべきではない。私が関わると、廉士が迷惑する。
本心に抗う様に強く下唇を噛みしめて、その場から逃げ出そうと身体の重心を前に傾ける。
片足の不安定なバランスになった瞬間、今度は私が手首を掴まれて引き戻される。
思わず背中から倒れそうになったのを、廉士の身体に受け止められる。
「わりい! 俺今日用事あったんだわ、ほんとごめん! また連絡する!」
体勢を立て直して振り返ると、廉士が片手をあげて謝っている。私の手首はまだ解放されていない。
これは、どういう状況だ?
廉士の視線が戻ると大きな手から解放された。掴まれていたとろが、夏の暑さとは違う熱を帯びている。
「さ、帰るか」
最初のコメントを投稿しよう!