七月の昼中、君を刻む

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「先約はよかったの?」 「いいよ。だって初めて誘われてめっちゃ嬉しかったし」  蝉の声が響き陽炎さえも見える道中、暑さもものともしない爽やかさが全力で向けられる。  疼く気持ちを押し殺すように、廉士の言葉には答えず影を踏むことに集中した。 「どこ行く? 涼しいとこがいいよな。腹は減ってない?」  私の素っ気ない反応には慣れた様に、廉士が続けて提案してくる。  私のしたいことはもう決まっている。それはとてつもなく唐突で、きっと廉士には理解しがたいと思う。だけどそれでいい。理解しないでほしい。  心を覗き込まれたら、取り繕えなくなってしまうから。  はた迷惑で独りよがりな願望を直接的に言えば今すぐ逃げられる気がして、とりあえずオブラートに包んで伝える。 「二人きりになりたい」 「どしたの。いつもとキャラ違うんですけど」  戸惑っているのか面白がっているのか、視界の隅で廉士が肩を竦めて笑うのが見えた。
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