七月の昼中、君を刻む

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 彼女の有無は知らない。どっちにしたって誘ってしまえば、年齢的に性欲なんて有り余っているであろう廉士は抱いてくれると思った。  廉士にとっては性欲に任せた感情のない行為で構わない。むしろそれが良い。  こんなこと初めてだなんて絶対に気付かれないようにして、廉士に抱かれる。重さは決して感じさせてはいけない。  例えば悪い夢でも見たように、廉士が私と過ごした時間など大して気に留めずすぐに忘れてしまえるように。  それが、わがままを押し付ける私の責務だ。  しばしの間唖然とした後、はっと我に返った廉士が私の手を振り払った。 「何言ってんの?」 「廉士とセックスしたいの」 「イカれてんの?」 「どちらかというとイかせたいしイきたい」 「あのな……」  怒ったのか呆れたのか、溜息をつきながら廉士があたしの正面にしゃがみ込む。 「どうしたんだよバカナ。ほんと今日おかしいぞ」 「いつもおかしいよ。おかしな家で育ったんだもん」  もう後には引けない。何もかも見透かされてしまいそうな真っ直ぐな瞳を遮断するように、廉士のシャツの襟元を掴み強引に引き寄せる。  触れ重なった唇に、人の唇はこんなにもかさついているのだと知った。ファーストキスの味なんて、ちっともわからなかった。
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