激励

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激励

 プレツの都市であるスップに到着した翌朝、ギンとエイムは宿泊していた宿をあとにし、教会に向かうこととした。 「昨日のうちに宿の主人に聞いた方角だとこっちの方らしい」 「はい、でもこのスップの町もタグ並みに大きな町なんですね」  プレツはコッポと交易をしている関係上、コッポの都市であるタグに流通している商品がプレツの各都市にも流通しやすく商売が盛んになりやすいのである。  またこの町にはミッツ教団の教会が存在する。ミッツ教はミッツ神という癒しの神を崇める教団であり、入信している者はミッツ神の加護を受けており癒しの魔法を使用できる者が多いのである。魔力の強いものほど強力な癒しの魔法を使用することができるのである。    エイムもそういった者を探すためにスップまでやってきたのである。 「この国ではそのミッツ教が力を持っていて、国境付近を守るのが手一杯の兵士の代わりに周辺の町や村に襲来する魔物の討伐をしているようだ」 「僧侶様が魔物と戦う力があるんですか?」 「僧侶といっても、中には武人から転身した者もいるようだし、魔力の強い人間なら攻撃魔法だって強いはずだ」 「すごい方達なんですね。私は癒しの魔法は使えませんからそれだけでも尊敬します」 「しかし彼らは自らが信奉する神より加護を受けている。それにより精霊との契約ができないから攻撃魔法の威力には限度があるようだ」 「お気遣いありがとうございます。でも私が癒しの魔法を使える方を尊敬というかあこがれるのは、別に僧侶様だからというわけではないんです」  ギンは精霊と契約して強力な魔法を得やすい魔術師、そして信奉する神より加護を受けて自身及び他者を守るための魔法を得やすい僧侶、それらの違いを述べ、一長一短があるということをどこか自信なさげなエイムに伝えたっかったのだがエイムの考えは別にあったようだ。 「私の母は癒しの魔法は使えませんが、魔法で薬草を調合して薬を作ることができるんです。私も小さい頃、病気になったときはよくその薬で治してもらったんです。でも今は母の魔法薬でも父を治すことができないんです」  エイムは今、自分も母さえも父を救うことができないことが心苦しく思っている。だからこそ父を救える可能性のある僧侶に様々な思いを馳せ、少なからず尊敬の念も生まれたのだろう。エイムの言葉を聞いてギンが言葉を発する。 「そうだな、自分の大事な人を救えるかも知れない人に思いを馳せることはあるかも知れない。だが、君が動いたことでお父さんを救う可能性が生まれたんだ、それを忘れないほうがいい」  ギンはエイムが動いたからこそ父を救う可能性が生まれてことで決してエイムは無力ではないと訴えたかったのだ。その言葉を聞きエイムは返答する。 「ありがとうございます、そこまで私に気をつかって下さって」  会話しながら歩いているとその道中で大きな男が倒れていた。一瞬驚くギン達であったが、とりあえず話しかけてみる。 「おい、大丈夫か?」 「大丈夫ですか?」 「う、うーーーん」  男はギン達の言葉に反応をしめすがはっきりとした返答はない。ギン達は相談してあることを決める。 「どうする、この男も教会に連れていくか」 「そうですね、もしかしたらこの方も怪我か病気をされてるかも知れませんしね」 「ま、待ってくれーーー!俺はただ2日も何も食っていなくて、ぶっ倒れただけだ。後で礼はするからなんか食わしてくれるか」  ギンはどこかで起きたことだと思い、一瞬エイムの方に目をやる。思い当たる節があるのかエイムは少し恥ずかしそうにしている。すぐに男の方に視線を戻したギンは男に尋ねる。 「1食位なら別に構わないが、あんたが俺達にどんな礼ができるんだ?」 「あんたら旅の(もん)か?」 「一応そうなるな」 「目的の場所まであんたらの護衛をしてやろう」 「だが、俺達が行きたいのはこの町にあるミッツ教の教会だ。まさかそこまで危険なのか?」  もちろんギンはこの町がミッツ教のおかげで治安が守られ危険が少ないことはすでに宿の主人より聞き及んでいる為、ギンなりに冗談交じりで返したが、男は一瞬言葉を詰まらせるがギンの予想を上回る返答をする。 「じゃあ、あんたらが教会の用を済ませてこの町をでた後の次の目的地まで護衛をしてやる。それでどうだ?」 「だが、俺達は教会での用を済ませたらコッポまで帰るんだが、あんたの護衛は国を越えても大丈夫なのか?」 「ああーー、いいぜ!いくよ」 「1食で、割に合うとは思わないんだが」 「受けた恩を返す。ただそれだけだっ、ていうか早く食わしてくれーー」  少し戸惑いつつもギンはエイムに一旦、飲食店に行く許可をもらう。 「じゃあ、少しどこかに寄ってから教会へ向かうがいいか?」 「はい、いいですよ」  エイムは少しではあるが微笑んでいた。先程ギンより激励を受けたのもあるが、ギンがこの男とのやりとりを楽しんでいたように感じたこともあり、少し可笑しかったのだ。  続く。
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