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そしてふたりは結ばれて。
しゅるりと腕が寝間着の袖口を抜けて。
篠原君、と安良沢の声が背後から。
「か、係長……」
心臓が、おかしくなりそう。こんな、こんな。
性行為は初めてではないのに。でも、こんな、こんなに。緊張して。
「係長」
一糸纏わぬ姿の安良沢は、想像していた通りのふくよかな身体つきで、ふわふわとした毛並みが触り心地良さそうで。
「おいで、篠原君」
「係長……はい……」
一度、また一度身を擦り寄せて、ふたりは、夜の帳に溶け合う。
「んんっ、篠原君……」
「係長っ……」
艶めかしい吐息。甘い柑橘の香りをきっと、行為の前に忍ばせたのであろう。安良沢は随分抜かり無い。
「かかりちょっ……柔らかくて」
ずっと、こうしていたいくらい。
「んんっ、あ……篠原君……」
背中に、ふわふわした腕が回る。あっ、と小さく声が漏れて。
「温かいね、篠原君。僕、ずっと思っていたんだ」
君と、ひとつになりたい。
――いいかい。
――いいです。
「し、しのはら、くんっ」
「かかり、ちょうっ!」
「んっ、んんんっああ」
「ふぁっひゅあああっ」
裸で抱き合う。互いを求め合う。小さく静かな部屋に、ふたりの吐息だけがこだまして。
舌と舌とが絡み合う。頬は随分と熱を帯び火照る。雄の証は膨れ上がり、先端からは既に先走りが溢れて。
くちづけだけでこんなにも。一度離して、呼吸を整える。
情熱的で、官能的で、そして妙に、上手。ごくりと唾を飲んでから、触ってもいいですかと篠原は聞いた。
「係長の、おっぱい……」
大きくて、広くて。
「おなかも……」
ふっくらしていて。
「それに……係長の……」
篠原は、安良沢の下半身へと手を伸ばす。膨らみは想像していたよりも随分大きい。そっと握ると、やあっ、と小さな声がした。
「し、篠原君……実は慣れてるでしょ」
「男のひととするのは、その、初めてですけど」
その。
「係長の今の声、すごく、こう、ぞくっとしました」
もっと、聞きたいんですけど、いいですか。
「お釣りは無しで、満額全部」
係長を感じたいんですけど、いいですか?
「ふふ、今時の若い子は、随分と欲しがりさんだね」
安良沢は篠原の頭を撫でて。それから頬を掻いて。
「お恥ずかしいところを、見せちゃうかも知れないけど。僕、性器弱いんだよね、すぐ感じちゃう」
ただその目は、既にぎらついて。
***
安良沢は慣れている。慣れた手付きで安良沢は篠原の敏感な部分を的確に触り、そして。
「キス。しても、いい?」
耳元で囁いてそれから、頬に、乳首に、と軽く唇を当てていく。ふう、と一息ついて、身体をベッドに投げ出した。その傍らに篠原も寄り添って。
「係長、相当上手なんですね、こういうの。意外っていうか」
「いやいや、そんなでもないって、でも……」
――寂しかったからさ。
「……えっ……?」
部屋の天井を見つめながら、安良沢は呟いた。
「妻を亡くして、寂しかったから。妻には申し訳ないと思いながらも、でもこの寂しさを抑えきれなくて」
いろんなひとを抱いたし、いろんなひとに抱かれた。だから。こんなの、当たり前。
「がっかりしたかい? 失望したかい?」
安良沢はごろりと、篠原の方へ身体を向けて。
「何にです?」
「こんな僕に」
「…………」
どう答えればよいのだろう。
若くして最愛の妻を亡くして、その寂しさは想像に難くない。
だから男に溺れ、夜な夜な嬌声をあげて、白い意識を虚空へ散らす。
目の前の、憧れの係長は、そんな男なのだ、と。
「今はまだそんな……答えられなくてすみません」
篠原は率直な意見を述べた。目の前に提示された情報を素直に咀嚼できない。ただひとつ確かなことは、目の前のホンドタヌキの係長は間違いなく今、自分にとっては特別な存在であるということ。
「……逆に……」
係長は、俺の事。
「寂しさを埋めるだけの存在だとしか、見てもらえないんですか?」
「えっ……」
安良沢は目を丸くして。それから寂しそうな表情を見せて。
「……そうだよね、そう思わせちゃうよね、ごめん」
最近はね、そういう遊び、してなかった。
「年度も変わったし、少しは真面目になろうかなって、思ってた」
そしたら、君が来た。篠原君、君のことだよ。
「…………」
「篠原君、君は違う。だって、僕を選んでくれた。僕も君を選んでる」
いい関係に、なれると思う。
「さて篠原君。上司が部下に、夜の指導、しちゃおっかな」
「…………っ」
弄られる。その手付きは妙に艶かしく。
「かかりちょ、っ、ああ」
この感覚は未体験。胸を、腰を、腿を、実に優しく撫で回される。
「んんっ、篠原君ってば」
柔らかい手は臀部を伝い、篠原の尾の付け根に触れる。一際強い刺激が、頭の先から足指の先まで走って。
「やっぱり付け根って、感じちゃうよね」
僕もそうだし。
「ここ、濡れてるね」
随分と張った陰嚢を、安良沢は包み込むように握って。
「ああっ」
思わず声が漏れた。こんな感じは初めてで。
「……手で、いい?」
自分以外の誰かに竿を握られる経験は、勿論無かった。だから、甚く緊張して。はい、とか細く応えて。
「…………っ……」
ぬちゃぬちゃと、淫らな音がする。皮が上がり下がりするたびに、その音が聞こえて。ああ、ああ、と篠原はただされるがまま、安良沢に股間を弄り続けられる。
「あ、ダメだ。僕、我慢、できなくなっちゃった」
「か、係長……?」
ごくり、と唾を飲み込む声が聞こえて。安良沢はその大きな身体をゆっくりと捻り。
口を開き、腺液に塗れた篠原の先端を――。
「あううっ!!」
温かい。自分の敏感な部分が、温かさに包まれている。ざらついた舌が、裏筋を舐め上げた。
「ああっっ!!」
それから、その舌は雁首へと差し込まれて。
「ううっ、ああ!!」
じゅぷっ、と音がする。包皮の上下運動が、口で行われている。唾液と腺液が混ざって、随分ぬるぬると舌感触がある。アダルトグッズのローションのようで。
「んんっ、んんっ……」
安良沢も身体を上下に動かして。その度に、篠原の陰茎は未体験の刺激に包まれて。
「ああっ! ああっ!」
堪えなければ。でも。
放ちたい。でも。
気持ちよくて。でも。
初めてで。こんな。
頭がおかしくなりそう。
「か、かかりちょっ……! ふあっ!」
陰茎はぴんと張って。むしろこれでもかと張っていたように思う。
放ちたくて、はち切れそう。膨らんで、その時を待って。
刺激が止まらない。舌が的確に篠原の敏感な部分を責める。鈴口への擦り付け。そして、勢いよく根元まで。喉の奥まで使った奥義のような吸引が、最後の引き金となった。
「かかりちょっ、で、でちゃ、出ちゃうっ……! ああああっ」
――――――!
弾ける視界。これまでの人生で最高の快感を伴って。ありったけを、安良沢の口へ。
「んぐうっ……!」
ぶるりと身体を震わせて、安良沢は口を押さえて息を整えてそれから。ごくり、と飲み込む音がした。濃っ、と安良沢は咳き込んで。
「あっ、す、すみません……その……」
「いやいや、げほっ。若いってことだからね、ほら」
篠原君のソレ。まだまだイけそう。
「!!」
「か、係長っ……」
オヤジギャグなのか、恋人同士の会話なのかは、少しまだわからない。
***
「こんなの初めてで、疲れちゃって」
「まあ、そうだよね、男同士ってこんな感じだよ」
「手練れていらっしゃる」
「あはは、否定はできないかな」
じゃあ次は篠原君の番、と安良沢はけしかける。
「いっぱい気持ちよくさせてよ?」
「ハードル上げないでください」
「かっ、か、かかりちょ、かかりちょおっ」
篠原は安良沢の胸に飛び込み、顔を埋め、擦り付ける。毛束が随分心地良い。
「し、篠原君っ」
安良沢の心臓の鼓動は随分と速く。緊張が伝わってくる。
ぐううっ、と安良沢は歯を食いしばりつつも、吐息を漏らす。
興奮する。ふっくらとした身体のラインが、こんなにも魅力的だったとは。
篠原は、安良沢の肢体のそこかしこを撫で回す。
柔らかい。温かい。汗と柑橘の香りに、篠原はアガる。
そう言えば自らもケモノ。本能のままに、安良沢の性感帯を責めあげる。
やがて口をぱかあっと半開きにし、安良沢は随分善がるようになった。
やっ、やあっ、と上擦った喘ぎ声は、余計に篠原を煽る。
「しのはらくんっ! しのはらくんっ! ああっ! ああ」
悲鳴にも似た喘ぎが、絶頂へと至る兆しを匂わせる。
酸素を求め続ける様は、随分と艶やかで。
こんなにもこんなにも、感じてくれて。
こんなにもこんなにも、自分を求めてくれて。
篠原は単純に嬉しかった。
安良沢が震える。もっと欲しい、とせがむ。
「か、かかりちょ、っ」
手のひらには余る大きさの陰嚢を揉みしだきつつ、竿の裏筋に人差し指を這わせる。ひゃあっ、と安良沢は声を上げた。
もう、我慢がもう出来ない。
「かかりちょうっ! すきですっ、すきっ……」
その声をもっと聞かせて。
達する瞬間の蕩けた顔を、自分だけに見せて。
包皮を、上へ下へと乱暴に動かす。あっあっ、と安良沢は喘ぐ。
篠原の責めを、安良沢はただただ耐え続け、やがて。
「しのはらくんっ! だ、だめっ! でちゃうっ、あ、ああっ!」
一瞬。ぶるりと震えた後。先端から飛沫が弾け飛んだ。安良沢の精液は自分のそれよりも、随分どろりとしていて、温かく。
ただ、吐精をした直後であるのに、安良沢の竿はまだまだぴんと張ったまま。タヌキの精力はすごいのだなあと篠原は思った。
「しっ、しのはらくんっ……あっ、はあっ、はあっ、あ……」
肩で呼吸をしながら、すごくよかった、と篠原の頭を撫でる。
「随分乱暴にイかせてくれたよね。困っちゃう」
もう少し情緒を覚えようね、と安良沢は頬を膨らませて。
「すみません……係長が感じてるの、嬉しくて」
何を答えているのだろう。
「ふう、ふう。……僕はまだ全然だけど、篠原君はどうする?」
「どうすると言われましても」
これ以上気持ちよくなったらおかしくなってしまいそうで。
「そっかあ、ちょっと残念」
舌をぺろりと見せて。安良沢の仕草は随分とお茶目。
「でもこれから、何回もできるから楽しみにしてる」
右の頬に軽く小さなくちづけをして。安良沢は笑った。
つられて、篠原も苦笑いをして。
「係長」
「何だい?」
「ええと……」
――そういうところ、好きです。
「…………」
随分唐突だねと、安良沢は篠原の頬を撫でてそれから。
「僕も」
今度は、くちびるとくちびるが触れるくちづけを。
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