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屋敷に戻ったアタシたちを待ち受けていたのは、家令・ロディだった。
「お坊ちゃま、トーコ様。遣いが戻っております。応接間へどうぞ」
家令の先導で応接間に入ると、そこに1人の男が立ったままで待っていた。
「遅くなった」
そう声をかけてソファーに腰を下ろしたギルは、隣に座れ、とアタシにも手で促し、口火を切る。
「で、王はなんと?」
遣いとして出されていた男が答えた。
「明日の朝、トーコ様にお会いになるそうです。ギル様も同席してよいと」
「わかった。ご苦労だったな」
男が去ると、今度はメイドが呼びに来た。
「夕食の支度が整いました。食堂へどうぞ」
「だってさ。その前に君は荷物を部屋に置いてこないとね」
立ち上がったギルはアタシの荷物を抱えて、アタシを部屋まで導き、そこから食堂へと廊下をたどる。話題は先ほどの遣いのことだ。
「明日、か」
「意外と早かったんじゃないか?」
「そうだね。朝を指定してきたのはご政務が少ない時間帯だからだろうけど」
食堂に着くと、旅の間護衛としてついて来ていた3人もいた。給仕役なのか、3人のメイドが3メトーはあるだろう長テーブルの周囲にいる。うち1人はアタシの世話を任されたと言っていた彼女だ。
「トーコ様、こちらへどうぞ」
ギルは当たり前のように上座の席に着き、護衛たちが下座の端の方に固まっているから、と下座へ行きかけたアタシを、メイドが上座寄りの位置に呼んだ。
「そうそう、君はこっちでいいんだよトーコ」
苦笑と共にギルも言う。
「そういう……ものか?」
貴族の流儀はよくわからない。伯爵一家は割と気さくで、アタシにも村人たちにも優しいけれど、そんな貴族ばかりじゃないことぐらいは知ってる。
ちょっと釈然としないものを感じながら、席に着く。すると、家令がワゴンを押してきた。
食事は貴族らしくフルコースだ。こっちはそんなもの慣れてないってのに……。おかげで一つの皿を空にするのに必要以上に時間がかかってしまう。
「これは珍しい。料理長が張りきったらしいね」
運ばれてきたメインディッシュの肉料理を見て、ギルが目を丸くする。家令が応じた。
「左様ですね。ギル様や奥様が領主館で世話になっている薬草師が来ている、としか伝えてはいないのですが」
「つまり、これは料理長なりの歓迎ってことのようだよ、トーコ?」
知るか! と怒鳴ってやりたいところだが、食事の席でそれは明らかにマナー違反だ。しかし、困ったな。しゃべってたら片付く物も片付かない。知る限りの貴族マナーを駆使しつつ、黙々と食べるしか時間短縮が出来そうにないな。
なんとか食後のデザートにたどり着き、ちょっと気を抜いたところでギルと話し合う。
「国王なら優秀な医師も白魔術師も呼び放題だろうに、なんでこんな薬草師を呼び出す?」
「君の両親が、昔僕を治したことを、父上は知り合いに自慢げに話していたこともあったからね。だけど、例の公爵くらいしか普段王都にいないはずだから……」
「その公爵が漏らしたんじゃねぇのか?」
「いや、それはありえないよ。僕も何度か会ったけれど、彼はそんな人じゃない」
「あ~、ダメだ。考えてもわからねえ。直接会った時に話をするしかないか」
「そうだね」
そしてその晩は、うちとは質が違いすぎるベッドに悪戦苦闘しながら眠ったのだった。
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