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拝謁
翌朝、窓辺から差し込む光で目が覚めた。
「ん……?」
なじみのないベッド、同じく室内の内装……。ここ、どこだ?
「あ、おはようございます、トーコ様。お目覚めですか?」
部屋の隅で作業していたメイドにいきなり声をかけられた。
「うわぁっ」
びっくりして飛び起きる。
「どうされました?」
「いや、なんでもない。というか、自分が置かれてる状況が把握できてなかった」
そうだ、ここは村じゃなくて王都で、伯爵家の屋敷だ。アタシは半月近くかかってここに来て……。
「顔、洗える?」
「あ、はい。こちらへどうぞ」
メイドが示した丸椅子に座ると膝と首元に布がかけられ、水の入った小さな盥を膝の上に載せられた。よく見ると丸椅子の周囲は濡れてもいいように布が敷かれている。
「ありがとう」
盥の水を手ですくい上げ、顔を洗う。何度か繰り返しているうちに頭がすっきりしてくる。
「ふう。すっきりした」
「それはようございました。失礼しますね」
メイドは盥をどけ、膝の布だけを取り払う。首元の布は逆向きにして背中側に垂らされた。
「綺麗な髪ですわね」
ブラシを手に背後に回ったメイドがアタシの髪をとかしはじめる。背中まで伸びた、日に焼けたせいか黒ともこげ茶ともつかない色の髪は、彼女の言う通り村の外れで生活していても何故かあまり傷むことはなかった。
とかし終えた髪をうなじのあたりで一まとめにくくると、メイドは首元の布も外し、アタシを丸椅子から立ち上がらせる。
そのまま作り付けのクローゼットに誘導し、昨日荷解きをした段階でハンガーにかけておいたアタシの服を差し出した。
「お召替えをどうぞ」
アタシが着替えはじめると、丸椅子や布、盥をワゴンに載せてメイドが出ていった。片づけに行くのだろう。
着替えを終えて身支度は完了。そのタイミングを計ったかのように朝食の呼び声が来る。
「さて、行きますか」
メイドの誘導で食堂にたどり着き、昨夜と同じ席に着く。
「おはよう、トーコ」
「おはよう。これを食べたら出るんだろう?」
ギルとの挨拶も済ませ、運ばれてきた食事に手を伸ばす。その直後、ギルが言った。
「出かける前に着替えた方が良いね」
「そうか……。ってなんで?!」
「その恰好は村での普段着だろう? 王城ではきっと場違いだよ」
「だけど、これ以上まともな着替えなんて持ってないぞ。それに、着飾ったところで、この口調じゃ意味がない。無理やりにいろんなことを変えたアタシが見たいか? お前」
「そう……だね。考えたら気持ち悪くなった。トーコはこうだからトーコなのにね。仕方ない、着替えは諦めよう」
あ~びっくりした。まったく、いきなり何を言い出すかと思えば。
少し時間をかけて食事をして、迷いそうになりながらも1人で部屋に戻る。リュックの中身を検分して、ある程度の薬草と器材がそろっていることを確かめ、それを抱えて玄関へ。
「ちょっとトーコ。それも持って行くのかい?」
玄関で再び合流したギルに呆れた声をかけられた。
「だってアタシは薬草師で祈祷師のトーコだ。道具がなきゃまずいだろ」
アタシは言い放ち、リュックを抱えたまま馬車に乗る。馬車は一路第1の門を目指した。
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