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「おいモモ太、ココどこだ?」
「アうん。どっからどう見ても学食だよね。……それよりコレは何かな?」
コレ、と俺の首に嵌められた犬用のリード付き赤い首輪を軽く引っ張って見せる。リードの先は彼の手。
天パクンは俺の言葉をドスルーで「そうだ、俺いいの持ってんだよ!」つって取り出したのがコレだし、モモ太は無名の俺の為に天パクンが笑顔でくれた名前。面由来のモモ太。
……距離を置かれるどころか雑な名前と首輪嵌められるとか顔面真っ青だよ。進行形で。
そんで首輪は外しにくいわ外す隙すらなくリード引っ張られるわの始末だし逃げようにも異次元な展開に俺の足は大爆笑!
グイ、とリードが強めに引かれて前に少しつんのめった。
「首輪に決まってんだろ」
「だ、だよねー!」
頼むから持ってくれ、俺のガクブル膝……!!
時にしてここは学食。
「お、KY厨二病くん今日は彼氏とじゃねえんだ」
「そも公共の場でなにSMしてんだって話な」
「ッだ、あんのクソ仮面またか! 鏡宮様の下につかせてもらってる分際で…!」
好奇の目は必然と集まるし、特別騒々しくはないけど小声の方が耳に入りやすかったりするよね。
特に俺は五感もいいから余計にさ。
「あのぉー……あのさ天パクン。君は一体何してんのかな? 学食なんて見慣れて、」
勇気だけはある俺。
いよいよカオスな構図と視線に耐えきれなくなって、意を決して探索するように歩き回る彼に声をかけたとき。
「アレ、そこに居んのヒロクンじゃん!」
クソな現実を抜きに背後から聞こえてきた声に条件反射で総毛立った。
なんっ…たってこの瞬間に学食に居んだよアンタ購買派だよね………!!
恐怖を理不尽な怒りにすげ替えて振り向いたのと同時。
思っていたより近かった九十八に倒されて首輪がことさら絞まった。ヴォゲ。
「オェッ…今の現状でも最悪なのにマー……ジでアンタはムリだって。相手出来んって。お願いだから遊園地の着ぐるみに飛びついとけよ」
鋭い犬歯剥き出しのニッパニパ笑顔の前にストップの形で手を出しても「今日は特にキメェ面着けてんな」て会話すらしてくれなかった。詰み。ガチ怖。
「モモ太なにやってんだよ来い!」
「来いなんてそんな俺の体制見てほしいな。絶賛キチガイに下敷きにされ゛ッッ! ちょ引っ張んないで!」
「そっか、なら邪魔だからじゃあな」
そんなまさか!
初対面で首輪を渡してくる天パクンでも………ぁ。
遠ざかってく背。俺は夕焼け空の高架下で捨てられる気持ちを味わった。
ぉぇぇえん……。
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