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「捨てられちゃって可哀想なヒロクン。オレが飼ってやろうか?」
「誰が捨て犬だよ全力抵抗するわ。アンタにならギリ勝てるからな」
「それで毎回ボコられてんのテメェだろ」
首輪を指で軽く引っ張られた拍子に顔が近付く。
そこかしこから「ヤバいカッコよすぎて脳汁出まくり」「悠大様…一回でいいから俺のことも蹴っ飛ばして馬乗りになって…」「合法視覚麻薬ガンギマる」とか狂った妄言が聞こえるあたり人気らしくて胃痛!
「もー…いい加減退けよ。苦しいって」
ムリは承知で下敷きになった体を動かせばむしろ笑って体重を乗せられた。
何なら両手首掴まれて地面に押し付けられたし…そこでふ、と九十八の笑い声が止んだ。
「なんでオレのこと避けてた?」
疑問と一緒に口角だけを緩やかに上げた位置で留めた笑みに背筋が薄ら寒くなった。
ほら見て! キモくて肌がチキンなったよ!
「聞いてんのかよ」
つってもね、やっぱしいくら眉目秀麗と言えどコイツは九十八! 動揺は一切ない。
会長サマとかだったらドキドキしてたかも知んないけどね。絶対ねーわ、はは。
ガッと首を片手で掴まれて眉間に皺を寄せた超絶不機嫌そうな顔面が急接近した。
「ぶち犯すぞテメェ」
「ア自分そゆの受け付けてないんッデェッッ゛ッ!!!?!!?」
ホモ展開はお断りだとマジ声トーンで断ったお、俺の。俺の耳たぶに鋭い…大方やつの持ち前の鋭利な犬歯が深深と突き刺さって。
その痛みに脂汗がぶわっと滲んで、血の気が一気に引いた。
「…こッっ…のカス野郎が…!!」
耳噛むやつがあるかよおたんこなす!!!
どちゃくそ痛くて思わず半泣きに叫べば「…え、アイツ普段と違って治安悪くね?」外野の声を鈍く痛む耳が拾って、俺の脳内に最悪な未来図が電流のような速度で駆け巡った。
このままいけば治安が悪いレッテルが貼り付けられて過激派親衛隊に親友との仲を引き剥がされんじゃ………?
「……アー………ゥン……ごめんね俺が全部悪かったネ。今度お詫びするから今は穏便に仲直りしない?」
直ちに態度を改めて首を掴む腕を叩くと、驚いた猫みたいな顔をしてから仄暗い目を細めて笑った。
「ヘェ。じゃあココ」
首を締めていた方の手を動かして触れたのは噛まれた方の耳。
その意味を秒で理解して青ざめる俺なんか無視で、親指の腹で傷口を優しくなぞられた。
「い……や、はは、九十八もしかしてまだ怒ってんの? そんな冗談、」
「ヒロくんさァ…今までオレと居て、オレがこんな冗談言ったことあるっけ」
…拝啓親愛なる親友へ。
この度、奇戸尋は耳の処女を捨てることになりました。
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