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自己紹介もそこそこに彼の席は親友と爽やかクンの間に決まったわけだけど……道中に明らかに転ばせるために伸ばされた足。
す、と援護射撃として消しゴムを取り出した気遣いは無用だったみたい。
なんたって素知らぬ顔で踏んで突き進んだからね! くちどけポッキーより図太。
「君って神経図太いね、僕は宿木。よろしくね」
初対面真正面から言える君もなかなか強者だけど、笑顔が爽やか過ぎて気にならないマジック…!
「よろしく。……そこの寝てる奴、名前は?」
「…!?」
爽やかって時に役得だな〜と思ってた俺は。
あろうことか転入生クンが微睡んでた親友の肩を揺さぶり始めたもので血の気が急速に引いてった。
…いや。
いやね、ここだけの話。
寝起きの親友は誇張じゃなくて本気で触らぬ神に祟りなしだったりしてね。アイツってば超絶低血圧でそれこそ視線だけで滅多刺あ、あ、あ……。
魔人起床。
そこで観察をやめ、左側への意識は全てシャットアウトして俺はのどかに午前の短縮授業を受けた。
…気もするけど途中空腹で意識ぶっ飛んだ気もする。
「…───んふ、ふ、さすがモモパンマ……ッッンめたァ…!!??」
ガッタタタァァ!!!!!
「へ? んえ、…? え?」
前触れもなく強制的に眠りから覚醒された脳は大感謝ならぬ大困惑祭り。
机に膝をぶつけて痛いしなにより首がめっっちゃ冷たい。なに、何事!?
ぞぞぞっと冷えを辿るようにうなじに触れれば肌とは違う感触。触り覚えあるソレをぺりっと剥がして目の前に…冷えピタ。
…?
どっから湧いてきたのかと考えれば、大層整った顔面が覗いてきた。
「はよ」
「アしんゆー………親友おまッ! 冷えピタ貼んなよ!」
「お前を起こすには一番手っ取り早いと思って」
寝起き早々の耳に落ち着く平坦な美声。
いい声だね! …じゃなくて。
窓からの陽を帯びるサラサラな金髪。
綺麗だね! …じゃなくて!
今日も親友を見れて嬉しい…じゃないって!!
「ヴン…オハョ」
「どっからその声出してんの」
顔面が強い。ひたすら強すぎる。親友を構成する全てが天下一品だね今日も愛してる。
そう勝手に押し負けて愛を誓ったとこで、背後の人影に気付いた。
「わ、転入生クンってば親友と仲良くなれたんだ!」
「今朝といい夢ん中でもそんなん見てるとかガキかよ」
ガ…ッ……。
嫌味臭い鼻にかかった笑いに、ご機嫌だった俺の周りの空気は瞬間にひび割れた。
……な…なに。なん、…なんなのこの子!?
咄嗟に返す言葉も語彙もなく見上げるだけの俺は無様だろうけど、残念ながら悪態の語彙力の引き出しは空っぽで。
「はは、間抜けな反応だね。泣いてる子供も笑ってくれそう」
静かに見守ってた爽やかクンの一言が決定打についに無言で撃沈した。
というかこの子も初会話の一言目が鋭利すぎるんだけど……!
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