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「いいよいいよ。別に食べても死にはしないだろーしさ!」
周りからのイジメもそこそこにふ、と一呼吸をついて。
俺は男らしく腹をくくり、面を少し持ち上げながらダークマターを口に招いた。
三途の川って結構浅いね。
「ん…どした。そんな美味かった? 意外」
「バナナ!!」
「バナナ」
親友のバカ!!
三途の川を渡らず帰ってきた俺はかなり褒め称えられるべきだし、親友はモグラなのかもしれないね。この盲目野郎め!!
「や、ほんと一回この臭いだけ嗅いで。マジで臭いと同じでタイヤのゴム…を夏のアスファルトと割った味す、っュグッ」
水を何度かストローで飲んで口と喉のイガイガが落ち着いた頃。
如何に規格外な味をしてるのかって親友へ力説し始めようとした途端のこと。
俺の首は背後から絞められてフローラルな柔軟剤の香りに包まれた。
例えるなら、そう。気になるマドンナのあの子が通ったときにふわっと香るやつ。
…ま、ここは全寮制の男子校だから女の子は誰一人として教職員にも居ないんだけど!
「ひーくん発見〜」
一瞬甘酸っぱい初恋をしてた幼き日まで意識が遠のきかけて、柔らかい声にハ! と意識を戻して見上げた。
そこにはいつなん時もSNS映えしそう美丈夫な顔。
俺の周りって前世でどんだけ徳を積んだの? てアンケ取りたくなるほどの美顔が多いんだよね。
ともあれ、癖のない紺の髪に美白なすべ肌。見下ろしてるってのに圧も何もない桃色の柔らかな瞳。
その素晴らしい顔の持ち主と目が合った瞬間に俺は勝ちを確信した。
「あれ、なんだか美味そうなの食べてるね」
「ンァ〜会計サマ〜…!! や、もう是非食っていいすよ。全部! ううっ」
「なんで泣いてるの? ありがと〜」
ずずいと躊躇わず差し出せば、空いてた席に座って嬉々としてデケモノを食べ始めた。
その姿に「母性限界突破」「国宝級」「三時間は語れる」遺言残してドミノ倒しをする親衛隊ズは恒例。
きっと閉鎖空間にストレス溜まってるんだよ…。
「ゲ、テメェ生徒会だったのかよ」
「ん? あ。わは、けーちゃん今朝ぶりだね」
ひら、と転入生クンに手を振る様はなんだか親しげ。
そういや彼の案内係は丁度手の空いていた会計サマだとか話してたっけね。
それにしても口も態度も悪いのに転校初日に交友関係広めまくってる様子に内心感心。
俺なんか入学早々避けられまくっちゃったからさ……!
だからそこだけは感心、と頷いて寒気。底知れない悪寒を感じて背筋がゾッッと冷えた。
「君がココに居るワケを簡潔に」
いつからそこに居たんだろうね。
悪寒の元凶こと薄ら笑いを貼っつけた副会長サマが背後に立ってた。
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