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3.復活
俺はもう死んだ。
魔力は尽き、傷ついた体を無理に動かしたせいで、体力はすでになく、体は急速に冷たくなっていくのがあわかった。
まだ真っ暗な中、意識だけが残っていたが、やがてそれも消えるだろう。
(……あのとき、村を出るのを断ったら、もう少し長生きできたのかな?)
故郷に置いてきた両親と弟たちのことがふと脳裏に浮かぶ。
死んで魂が体から抜けるのなら、天国か地獄げ行く前に、せめて故郷の様子だけでも見に行きたい……そう思った瞬間だった。
『死んではいけません……!』
悲痛な少女の声とともに、口に何かがぶっ込まれる。
それは口内を満たし、唇の端からこぼれ落ちていた。
『飲んで、少しでいいの、飲んで、お願い!』
胸がドンとたたかれる。
その衝撃で喉がコクリと動き、口の中のものが喉に滑り込んできた。
冷たく、爽やかな何か……それはそのまま胃の腑に落ち、まるで強い酒のように俺の臓腑を焼いた。
「うあああっ!」
思わずその衝撃に飛び起きると、口の中に残っていた液体が、喉の奥にごばっと流れてくる。しかし今まで死にかけてた俺はそれをうまく飲み込めず、噎せてしまう。
「ゴホッ……ゲホッ……!」
「大丈夫ですか? 苦しいですか?」
目を開けると、先ほど救った少女が俺の背中に手を添え、小さな手で背中をさすりながらじっと俺を見つめていた。
「よかった……間に合いました」
「……もしかして、今のポーションか? 見ず知らずの俺にポーションなんて高価な物を使ったのか?」
「はい、助けていただいたのだから、それくらい当然です。あの、具合はいかがですか?」
言われてみて、体がものすごく楽になっていることに気づく。
はっと思って腕を見ると、俺の体を蝕んでいた腕の傷は、ほぼ跡形もなく消えていた。いや、傷があったことを示すように、その部分の皮膚が、ほんの少しだけ色が薄くなっている。でもそれだけだ。
(痛みもない、熱も倦怠感もない……このお嬢ちゃん、どんなポーションを俺に使ったんだ?)
単純だが動くのに支障がででるほどの怪我を負った場合のポーションは大体単純ポーション1本1万デリ。結構いい目の宿屋に1泊とまる程度、あるいは男が1日力仕事をして稼げる程度の値段だ。
俺の状態のような、膿んだ傷や全身に悪い風が回って死にかけているような者の場合、そのポーションが最低でも単純ポーションが3本は必要になる。
だが、口に注ぎ込まれた量はそれほどたくさんではなかった。
単純ポーションの5倍ほどの効果がある中級ポーションは、作るのに手間がかかることや持ち歩くときにかさが少なく済むこともあって、大体7万デリほどする。
おそらく俺が飲まされたのはそれだろう。
そんな高価な物を、いくらグレイベアに襲われていたのを救ったからといって、迷いもなく使うなんて、このお嬢ちゃんは一体何者なんだ?
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