14.俺のターン

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14.俺のターン

「リタ!」 腕の中のリタに俺は呼びかけ、力なく投げ出された手を取る。 小さな手は血まみれで、そして驚くほど冷たかった。 「しっかりしろ、リタ!」 呼びかけに応えるように、指先がほんの微かに動く。 「ジュ……ド、さん」 「大丈夫か、リタ」 「私は……へいき、です。村長さん……は?」 「ああ、眠っているようだが、呼吸は安定している」 「よかった……」 「それよりリタは……」 「魔力、使い果たして……動けないだけ……です」 「よかった……」 全身から力が抜けていきそうになるほど、俺は安堵していた。 そのときになってようやく村のばたついた雰囲気を感じることができた。 子供を呼ぶ声や、馬のいななき、ドタバタと走る音などが、うるさいくらい耳に飛び込んで来る。 「血の匂いを追って、グレイベアがやってき来るかもしれないな」 「いや、絶対来るよ」 猟師のダンの息子だというセイムは、村長が助かったことに安心したのか、流していた涙を拭うと、はっきりと断言した。 「人を食ったグレイベアは、絶対に殺さないといけないんだ。人の肉の味を覚えて、人を獲物だと思うようになるから」 セイムの言葉に、ここにつれてこられたときの村長の様子をジュードは思い出した。 「あいつは、村長の前に、誰かを食ってた。食いかけがあったんだ……それで慌てて戻ってくる途中に襲われて……」 「それで守りをかためるために、村長の家に集まることにしたのか」 「オレたちも行こう。リタはあんたに任すから、村長はオレがおぶっていく」 「それなら包帯くらい巻いておかないとな。ちょっと待っていてくれ」 リタを一旦床に下ろすと、残っていた水で村長の血をざっと拭い、リタが使っていた薬をまだ残る傷にもう一度塗る。 布と包帯で処置をしている間に、セイムが新しい水を汲んできてくれた。 「あんたもリタも手が血まみれだ。洗いたいだろ」 「ああ、ありがとう。助かる」 リタの手についた血を拭い、自分も軽く手を洗う。 「そうだ、村を守るなら、あれも必要だな」 昨日自分が寝ていた部屋に戻り、マントを羽織り、盾を背負う。 (俺が少しでも戦力にならないと……) 気合いを入れるように、両手で頬をバンと叩く。 「よし、行くぞ!」 リタを抱いて外に出ると、もう辺りには誰もいなかった。 「村長の家はこっちだ」 見た目より力が強いのか、セイムはがっちりした体格の村長をしっかりとおぶっている。 小さな村なので、村長の家はそちらだと言われればすぐ分かった。 大きな木のそばに建てられた。この村唯一の二階建ての大きな家が村長の家だった。 「なるほど、あの家ならこの村の住人全てが集まれるな」 早足に村長の家に向かう途中でダンに出会う。 「セイム! 村長はどうだ」 「リタが助けてくれた。でもリタが……」 「魔力も体力も使いきっている状態だから、とりあえず休ませてやりたい」 「なら村長の家にいる女たちに任せろ。ジュードさんも早く村長の家に!」 「俺はリタを送ったら、村の守りに加わりたい」 「ありがたい! ああ、あんた、タンクなんだね」 ジュードの背負っている盾に気づいたのか、ダンが言う。 「守りなら任せてくれ」 「便りにしてっぞ!」 にかりと笑うと、ダンはどこかに向かっていった。 「急ごう、何かイヤな感じがする」 若いなりに猟師のカンのようなものがあるのか、セイムが急かすように言うのに、ジュードは頷いた。 村長の家の中は、集まっている人の不安そうな話し声で満ちているようだった。 「あんた!」 女たちの中から、中年の女性が飛び出してくる。 「おかみさん、村長はもう大丈夫だって。寝室に寝かせてくるよ」 「手伝うよ」 二階に向かうセイムたちに村長を任せ、集まってきた村人にジュードは声をかける。 「リタを休ませてやりたいんだ、どこか場所はあるか?」 「それならこっちに」 集会場も兼ねているらしい居間には、クッションがいくつも置かれた長椅子があった。 体が痛くないように、女たちがクッションを調整してくれた所に、そっとリタを下ろす。 「体力が尽きている状態だから、温かくしてやって欲しい」 「まあこの子はそんな無茶をして……」 近くにいた老女が、自分が肩にかけていたショールをリタにかけてやる様子を見ながら、あとは任せて大丈夫だとジュードは判断した。 「リタ、俺も村の守りに加わって来る。君が助けてくれた命だ、大事に使わせてもらう」 「ジュードさん……」 かすれた声でリタが名を呼ぶ。 「無理は……しないで……」 「リタにそれは言われたくないぞ」 ジュードの言葉に周りから笑い声が上がる。 「行ってくる」 「よろしくお願いします」 女たちが口々に言うのを聞きながら、ジュードは外に出た。 (俺は守ることしかできないが……それでも……!)
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