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プロローグ
「そろそろお戻りになってはどうです?」
凛と張った声には、厳しいというよりは呆れの色が表れていた。
「あれ、バレた?」
「パーティーはまだ終わっていないのですよ」
「眠くなってきちゃってさ」
「そんな嘘がわたしに通用するとでも?」
グレーのブラウスに同色のロングスカートという格好のメイドは、控えめな服装に反して見事なプラチナブロンドの髪を持っていた。
雲が流れる。月明かりにぼんやり照らし出されたのは、少年の後姿だった。
「まるっきり嘘じゃないけど」
と、彼は振り向く。
「リイに通用する言い訳じゃなかったな、それは認める」
「では、もっと上手い言い訳を考えてください。パーティーを途中で抜け出して、見張りの塔の窓から脚を出してのんびり座っていても納得できる言い訳を」
「何で今さら」
「あなたを探しに来ようとする騎士団員やメイドたちの手間を省くためです」
少年の瞳が輝いた。
「見逃してくれるわけ?」
「少しの間だけ、眼を瞑るだけです」
リイと呼ばれたメイドは内心苦笑する。正直な眼だな、と思いながら。
しかし、彼の口から出てきたのは感謝の言葉ではなく、
「少しの間って、具体的にどのくらい?最低でも二時間だと助かるんだけど」
「……リュウ様、ご冗談はそのくらいになさいませ。二時間後ではパーティーが終わってしまいますが」
「冗談じゃないって、マジメな話さ」
「では、真面目な言い訳をお願いいたします」
「あーもう、冗談だよ冗談」
彼は片手をひらひら振って、軽やかに窓から飛び降りる。もしここが普通の国で彼が普通の人間なら全身バラバラになるところだったが、リュウという少年の身体はふわりと地面に着地し、すたすたとパーティー会場である王宮内庭園に歩いて行った。
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