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妖怪というのは、人を驚かせるのが好きな者は多いが、命まで取る者は(まれ)だ。 まして、百鬼夜行路を通っていく者は、どちらかと言えば、もうこちらでは存在しづらくなった者たちだ。 「さて。では、龍退治といこう」 無作法に現れた侍を後目(しりめ)に、龍は列から外れた者たちを百鬼夜行路へ入るように促す。 その間、その長大な体で、斬りかかってくる侍から妖怪達を守った。 鉄が石を叩くような音が、静かな朔の空に何度も響く。 社の前の提灯の火は、乾いた草地を這い燃え広がっていく。 「さすがに硬いな」 龍の体を切りつける侍の声。 大気がピリピリとしてくるのを、柊平は見ていた。 嵐の前のような、不穏に湿った空気。 龍の池を囲む木々を揺らす風が、ざわざわと強さを増していく。 上空に雲が湧いていることに気付いたのは、雲から雲へ雷光が走ったからだ。 反対に、池から洩れていた百鬼夜行路の光が消えた。 大気を揺るがす咆哮(ほうこう)。 龍は僅かに体を捻ったように見えた。 その体が空高く伸び上がった時には、狂ったように刀を打ち付けていた侍の体は、紙人形のように宙を飛んでいた。 天を叩くような雷鳴が轟き、降り出した大粒の雨で、森を焼く火の手は瞬く間に消えた。 宙を舞った侍に人間の面影は無く、呪符のようなものが貼られた刀が、社から少し離れた所に突き立っている。 持ち主が絶命してもなお、あの嫌な感じは消えていない。 池へと戻った龍は、それらを一瞥すると頭を垂れて動かなくなった。
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