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ただ、柊平の知っている昔話と少し様子が違うのは、朔の夜。
真っ暗の中に、ポツリ、ポツリと、丸い光が列を成してやってくる。
歌い踊るは人々のそれと同じだが、その灯りを柊平は知っていた。
不思議にふわりと光るそれは、道しるべの提灯。
「百鬼夜行······」
何かの教科書の隅っこに図解があったかなかったか、草履や傘に手が生え足が生えやってくる。
それらは決まって、社の前でお辞儀をする。
社の中に置いてある玉は、灯りの無い者に道しるべを与えた。
龍の棲む池は、社の背面にある。
古くなった木製の屋根の隙間から覗くと、月の無い夜だというのに、龍の池は明るく光っていた。
朔の夜に灯りを持ってやってくる妖怪達は、決まってそこへ入っていく。
大きく立派な青い龍は、夜通しそれを見守っていた。
「もっと怖いものかと思ってたな·····」
柊平は、神々しい龍の姿にしばらく見惚れた。
小さな古い社から見る景色は、穏やかで優しかった。
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