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雨はいっそう強さを増し、止む様子はない。 池の水嵩が増し、社の足下が水に浸かっている。 何度か土地の者達が、社を拝みにやってきた。 川が氾濫しそうだと、助けを求めてやってきた。 しかし、そんな人々の願いでも、龍の負ったキズを癒すことは出来なかった。 大雨に煙る龍の池に、傘もささず1人の少年がやってきたのは、そんな最中(さなか)だった。 襤褸(ぼろ)の僧服を着た、険しい表情の少年。 自分とよく似ているが、なんとも言えない迫力があった。 彼は頭を垂れたままの龍に近付く。 「村の子らが相談に来た。あなたを助けて欲しいと」 「人の子に何が出来る。そうそうに立ち去れ。喰ろうてしまうぞ」 うっすらと目を開けた龍が、静かにそう返した。 あの嫌な刀で傷つけられた鱗は、治ることなくジワジワと龍の体を蝕んでいる。 「心にもないことを。人々の崇敬から生まれたあなたが、私を喰ったところでなんの役にもたたぬでしょう」 「その私を消そうとしたのも、また人だ」 怒りより哀しみを(たた)えた声。 「しかし、まだ必要とする者がおります。どうか······」 少年は池の縁に立ち、龍の体に触れた。 「あなたの名は」 龍はしばらく少年を見ていたが、観念したように答えた。 「煌鬼」 龍と桃晴の気配が混線する。 「無茶をする小僧だな。死にたいのか」 「さて。身軽な身の上ゆえでしょうか」 桃晴は、そう穏やかに答え、来た道を引き返して行った。
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