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至極(しごく)』 冷えた空気より、いっそう鋭い柊平の声。 (さや)から抜いた撫で斬りの刀身が、闇のように深い紫色に染まっていく。 『起きろ』 その深い紫色は、切っ先から、絵の具を水に溶くように(ちゅう)に滲み出、やがて池のほとりに像を結んだ。 いつか見た、銀色の長い髪と藤色の狩衣(かりぎぬ)。 そして、(わず)かに切れた雪雲から差した月明かりが揺れたのは、夜魅(よみ)と同じ金色の瞳。 その異形は、思いのほか静かに柊平を見つめる。 柊平は少しの緊張と、やはり拭えぬ(おそ)れを抱えたまま、その姿を見返した。
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