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「じいちゃんは?」
「眠っているよ」
電話をしてきたのは柊平の父、京介だった。
面会時間はとっくに過ぎている。
「母さんは?」
「着替えをとりに、1度帰ったよ」
着替えや洗濯は、百鬼の母屋ではなく、柊平の家で預かっていた。
壮太朗は、京介の父にあたる。
母にとっては義父だが、マメに通っては身の回りの世話をしていた。
そんな母が、今日は息子である父を傍において1度帰った。
柊平が来ることも、知っていたはずだ。
「父さん、じいちゃんの入院、長いよね」
ちょっと検査するだけ。
柊平に店をあづけることになったとき、壮太朗はそう言って笑った。
「それなりに歳だからね」
静かな声で父は言う。
祖父に訊きたいことがある。
だが、眠る祖父の顔は、少し痩せたように感じた。
「何かあったかい?」
複雑な顔で壮太朗を見つめる柊平に、京介は穏やかに訊ねる。
順当なら、柊平の前に撫で斬りの持ち主になるはずだった京介は、柊平や壮太朗と同じ。
首輪を外して、こっそり病院に入ってきているの夜魅の姿も見えている。
夜魅は京介と目が合うと、ふと思いついたように口を開いた。
「ねぇ京介、刀の名前って聞いた事ある?」
「撫で斬りの?」
京介は柊平と夜魅を順番に見て、形の良い顎に手を当てた。
「あの刀の⋯⋯撫で斬り以外の名前は聞いたことはないな。でも確かに⋯⋯通り名みたいな名前だけというのは、珍しいかもしれないね」
記憶を探るように話す京介は、そう言ったあとも何やら考えこんでいる。
「東の建物の中は見たかい?」
京介の言葉に、柊平と夜魅は顔を見合わせる。
「北じゃなくて?」
「北は刀を収めている蔵だろう?おそらくだけど、名前なんて重いものなら別に保管している可能性はある」
「なんで東?離れや店じゃなくて?」
「離れには鏡。店には出入り口がある。保管場所としてなら、東は完全に物置だから」
「仕舞っておくには、ちょうどいい?」
言葉尻を引き継いだ柊平に、京介は満足そうに微笑んだ。
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