10人が本棚に入れています
本棚に追加
命に別状はない。
ただ、店には戻れないかもしれない。
両親から聞かされたのは、そんな話だった。
「なぁ、夜魅。妖怪って、人間の寿命が見えたりするか?」
店への帰り道、街頭に黒く浮かぶアスファルトに視線を落としたまま、柊平がぽつりと呟く。
「どうだろうね。妖怪と幽霊はそもそも別物だから」
夜魅は振り返らない。
「そっか」
柊平も夜魅もそれ以上口を開かず、寒さだけが耳を支配する夜道を歩いた。
妖怪、人間、幽霊、精霊、神様。
たぶん、幽霊は見たことがない。
百鬼の刀に指名されてから関わってきたのは、ほとんどが妖怪と呼ばれる者たち。
中には、精霊に近いような者もいたように思う。
鏡子に至っては神と呼称されるようだが、それでも妖怪に近い。
夜魅と撫で斬りは、元は神と呼ばれた龍が魂を分けた姿。
それは、今はなんと呼ぶのだろう。
建付けの悪くなった引戸を見つめ、柊平はふとそんなことを考えていた。
最初のコメントを投稿しよう!