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「なぁ、夜魅。真ん中の部屋は誰が使ってたんだ?」
「んー?そういえば、誰かの部屋だったことはないかも」
「美咲ちゃんは?」
美咲は京介の姉、つまり柊平の叔母にあたる人だ。
「美咲はこの部屋を使ってたよ」
棚の上から夜魅が言う。
「なら、なんで従兄弟達を遠ざけてたんだ?」
柊平が物心ついた頃には、年上の従兄弟達はここはお化け屋敷だと言っていた。
「あいつらは、候補ですらなかったからね」
「刀のか?でも、見えてなくても、夜魅の声は聴こえてただろ?」
「あいつらは、信じてなかった。美咲と京介は大差なかったんだよ。でも、美咲は信じてなかった」
幼い頃に会ったきりだが、お化けだなんだと騒ぐ子らを一笑に付していたから、美咲自身も見えないんだと柊平は思っていた。
「京介はちゃんと信じてた。だから、恐れた。自分も姉も選ばない刀が、自分の子を選ぶことをね」
京介は常々、柊平に『 イヤな方へは行ってはいけないよ』と言っていた。
だから柊平は見えるけど、見たことはなかった。
「それなのに、俺なんだ?」
「恐れることは大事だよ」
夜魅は棚の上の古書を閉じ、柊平の前に飛び降りてきた。
「正しく恐れるには、冷静さが必要だと思わない?」
確かに、店を預かった当初は、知らないことが多すぎて、目隠しをされているような怖さがあった。
それに比べると、今は随分冷静かもしれない。
少なくとも、これから怖いものに触れるかもしれない、と分かった上で柊平は行動している。
「京介も、恐れてはいたけど必要なことなのは知っていた。だから、柊平がすることに反対しないだろ?」
そう。
最初から、柊平の両親は見守るという姿勢だ。
母にも話してあったのだろう。
祖父はもとい、父にも母にも、随分と信用されているのだなとふと柊平は思う。
大事な役割のあるこの家も、あの特殊な刀も丸ごと、任せられているのだから。
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