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その奇妙な店は、緩やかな坂の途中にあった。 古い木造建築で平屋建(ひらやだ)て。 店の前を流れる水路は苔むした煉瓦(れんが)積み。 その水路の上に架った、短いコンクリートの橋を渡った先に、店の入口がある。 店主はきっと、店の外観とよく似た古狸(ふるだぬき)のようなジイ様。 誰もがそう思って店の前を通り過ぎるだろう。 しかし、その店の中庭の、小さな池のほとり。 はらはらと舞う粉雪の中には、凛とした立ち姿の少年。 百鬼(なきり) 柊平(しゅうへい)。 現在、形式上、この店の主である。 「鏡子(きょうこ)」 柊平が声をかけた先。 西の離れの縁側で、(あか)被布(ひふ)を着た幼女が両手を広げる。 中庭の上空から、被衣(かつぎ)をかけるように百鬼の家が包まれていく。 家を守る手鏡の付喪神(つくもがみ)、鏡子の境界だ。 粉雪さえも、家を避けて通りのアスファルトに(にじ)む。 入口以外からは入ることが許されないこの状態は、柊平が()()りを受継いだ時と同じものだ。
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