014:僕は手を振った

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母さんは行き先も告げずに出掛けたけれど、数日すれば帰って来るものだと思いこんでいた。 ところが、母さんはなかなか戻って来なくて… あんなわずかなお金しか持たずに、そんなに遠くまで行けるはずもないし、旅の途中で何かあったのか、それとも何か心に悩みを抱えていて、もしかしたら馬鹿な真似を…… 悪いことばかりが頭を過った。 なぜ、母さんを旅立たせてしまったのかと後悔した。 探そうにも母さんの行き先等、何ひとつあてはなく……僕にはただ祈ることと母さんの帰りを待つことしか出来ずに……ただ、ただ、自分を責める日々が何日何日も続いた。 そんなある日、母さんは突然戻って来た。 痩せこけて酷くやつれて……旅立った日から何ヶ月も経っていたけど、その間、どこに行ってたのかも何をしていたのかも母さんは話さなかった。 旅先でただならぬことがあったのだとは容易に察しがついたけど、話したくないなら話さなくても良い。 無事に帰って来てくれただけで良かったと僕はその時思ったけれど、戻って来てからの母さんの様子は普通じゃなくて… えらく塞ぎこんで、家にひきこもったまま何もせず、外にも出なくなった。 その原因が旅先での出来事に関係があることは間違いない。 僕は、様子を見ながらそのことを訊ねたけど、母さんはやっぱり話してくれなくて… それでも、僕は事あるごとに同じ質問を繰り返した。 そして、何ヶ月も立った頃…… 僕は不思議な歌声で目を覚ました。 声に導かれ、暗い夜道をあるいていると、村のはずれの丘の上で誰かが歌いながら舞っているのをみつけた。 ほのかな星明りに照らされた長く伸びた金の髪… それは母さんだった。 僕が声をかけると母さんは逃げ出したけど、僕はすぐに追いついて…… その晩、母さんはやっと僕にすべてを打ち明けてくれたんだ。
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