014:僕は手を振った

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母さんは実はこの村の出身ではなく、ずっと遠くの村の出身だということ。 その村で母さんは巫女として働いていたが、ある時、村に迷いこんで来た旅人と恋に落ち、村を離れたということを。 なんでも、巫女はその役目が終わるまで男性とつきあうことは許されていないのに、母さんは僕を身篭ってしまい、そのまま村に残っていたら村の人達に迷惑がかかるかもしれないと思って、村を離れたのだという。 そして、辿りついたこの村で母さんは僕を産んだ。 もう二度と故郷に戻ることはないと考えていたのに、ある時、故郷の夢を何度も続けて見た母さんは、故郷の村に何事か起きたのではないかととても気にかかり、村に向かった。 旅行に行きたいと言い出したのは、そういうことからだったんだ。 馬車にも載れず、ずっと歩いてようやく帰りついたその場所は、もはや昔の面影はすっかり消え失せ、荒れ果てた砂漠のような村になっていたらしい。 それが自分のせいだと感じた母さんは、村で一ヶ月の間、毎日歌と舞いを捧げたが、今更そんなことをしても無意味だったようで……結局、何の変化も得られないまま戻ってきたということだった。 「シンファ…村には今はもうガーランドさんという方が一人いるだけなの。 村が酷いことになったから、皆、村を離れたそうよ。 でも、ガーランドさんは、いつかきっと精霊も許してくれる…昔の楽園のような村に戻れる日が来ると信じて、あの村に残ってらっしゃるの。 だけど、それは本来私の役目だと思うのよ。 もう巫女ではない今の私に、何が出来るかはわからない… だけど、やっぱり村のために何かしたいの! 私のせいなんだもの…村があんなことになったのは…!」 あんなに切羽詰った顔を見たのは初めてだった。 母さんにそんな過去があったなんて少しも知らなかったし、精霊だの巫女だの言われてもピンと来ない。 だけど、母さんがどれほど村のことを真剣に考えているかはとてもよくわかった。 だから、僕は、母さんのその想いを叶えてあげたいと思ったんだ。 もちろん、僕も息子として何かしようと思い、そこに着いて行くことにした。 ただ、僕にとっての故郷はここだから、永住する気はない。 母さんもそれはないと思う。 どんな風になってるのかはわからないけど、母さんの気の済むまでやらせてあげて、僕もそれにつきあおうと思ったんだ。 そして、それからすぐに僕達は旅立った。 僕の知らない、母さんの不思議な故郷を目指して……
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