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「か、母さん!」
「どうしたの?シンファ…」
「あ、あそこに人が……!」
「人……?」
母さんは、僕の言うことを疑うような声を出し、僕の指差す方向に顔の向きを変える。
「まぁ…!」
僕の言ったことが本当だとわかった母さんは、目と口が大きく見開きその方向をじっと見ていた。
次の日の朝、僕と母さんが水を汲んで戻って来る時、僕は遠くに人影をみつけた。
髪が長いから女性のようだけど、なぜだかその人は地べたに座りこんであたりを見渡している。
ここには、ガーランドさんと僕達しかいないって聞いてたから、僕は本当に驚いて……
「シンファ…行ってみましょう!
もしかしたら、ここの住人が戻って来たのかも知れないわ!」
「まさか……」
母さんは僕を振り返ることもなく、どんどん走って行く。
相手が誰なのかもわからないのに、無鉄砲っていうのか、好奇心が強いっていうのか……
僕は足の早い母さんの後を懸命に走った。
近付くにつれて、相手の正体が少しずつわかって来た。
相手も僕達が走って来るのに気付いて、立ちあがり、怯えるような様子で少しずつ後すざりして……
その人は、よく見ると男性だった。
僕よりは年上のようだけど、腰のあたりまで伸びる金色の髪がしなやかで、顔も整っていて女性的だ。
背は高いけど身体つきはとても華奢で、それがどこか不自然に感じられた。
「こんにちは。
あなた、旅人さん?
ここへは迷いこんだの?」
息を弾ませたまま、母さんはその人にそう尋ねた。
「え……そ……そうかな……」
不安げな声…目には落ちつきがない。
薄い生地で作られた白いローブは、今、座っていたせいで茶色くはなっていたが、着古した感じは少しもないし、荷物さえ持っていない。
とても旅人には見えない出で立ちだ。
だから、ごく近くから来たんじゃないかと僕は推測した。
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