015:走り続けたその先には

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「……心配することはないわ。 私はエアリス、こっちは私の息子のシンファよ。 あなたの名前は?」 「…………セルフィナ…」 「良い名前ね。 ねぇ…セルフィナ……以前、どこかで会ったことはなかったかしら?」 その瞬間、彼の真っ白な顔が赤くなり、彼はぶんぶんと頭を振った。 「そう……おかしいわね。 あなたを見てると、なにかとても懐かしい気がするのよ。 ……それで、セルフィナ……あなた、ここへは迷いこんだの?」 セルフィナは少し戸惑った様子で、一呼吸置いてから小さく頷いた。 「あなた、どこへ行くつもりだったの? 私が連れて行ってあげるわ。」 セルフィナは今度はすぐに首を振った。 「……どういうこと?」 「……ここに住む。」 予想もしなかったその言葉に、僕と母さんは思わず顔を見合わせた。 「住むって……見ての通り、ここは荒れ果てた村よ。 住むのにはとても……」 「……ここを元通りにしたい。」 おかしな返事だった。 まるで、彼はこの村の昔のことを知っているみたいな口ぶりだ。 もしかして、この村の住人の誰か?とも思ったけれど、でも、それなら、母さんが知らないわけはない。 「……そう、わかったわ。 じゃあ、そうしましょう。」 「か、母さん!」 母さんはすんなりと彼の申し出を受け入れて…僕はそれを聞いて酷く慌てた。 どこの誰ともわからないこんな男を村に入れて大丈夫なんだろうか? 確かに強そうではないけど、どこか普通じゃないセラフィナに、僕は警戒心を抱いた。 けれど、母さんは平気な素振りで彼に片手を差し出した。 「実は私達も昨日ここに着いたばかりなのよ。 それで、今日は、家を片付けるつもりなの。 良かったら、あなたも手伝ってくれる?」 セラフィナは、母さんに手を繋がれ小さく頷く。 大人ならきっとこんなに素直に手を繋いだりはしないだろう。 彼の様子は確かにおかしい。 もしかしたら、彼は少し知能が足りなくて……母さんはそれに気付いてこんなことをするのだろうか?
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