015:走り続けたその先には

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それは奇妙な光景だった。 母さんが、頭一つ分背の高い男性と、親子のように手を繋ぎ並んで歩いている… 彼は、母さんには心を許しているようで、母さんもまた彼に親しみを感じているみたいに見えた。 まるで昔からの友達同士みたいな雰囲気が漂う。 ガーランドさんも彼に対して僕と同じような印象を感じたようだったけど、危険はないだろうとのことで、彼がここに留まることに反対はしなかった。 母さんの家は、酷くいたんではいたけれど、どうにもならないって程ではなかった。 家に入ってしばらくは沈んだ顔をしていた母さんも、そのうちにてきぱきと片付けを始めてくれた。 いろいろと想うことはあるだろうけど、母さんはすべてを受け入れ前を向いて進もうとしてるんだと思った。 だからこそ、きっとここにも入れたんだ。 家の片付けに関して彼は僕の思った通り、まるで使い物にはならなかったけど、僕達のすることを見て、必死に覚えようとしている事だけはよくわかった。 それにしても、箒の使い方さえわからないなんて、彼は一体どういう生活をして来た人なんだろう? 家の片付けや掃除には三日かかった。 セラフィナは、日一日と僕達のすることを覚えていき、その頃にはそれなりに使える人間に変わってた。 すごい進歩だ。 それに、真面目だ。 それだけじゃない。 彼は、不思議なことに、ここを掘れば水が出ると言い出したり、枯れ果てたような木の治療のようなことを始めた。 僕もガーランドさんも半信半疑だったけど、彼は大真面目に取り組むから僕達もとりあえずは彼の言う通りにやってみることにした。 三ヶ月も経った頃には、村の風景が少し変わっていた。 彼の言った場所から本当に水が出て、死んだように見えていた木の枝には小さな緑色の新芽が顔を出し、茶色ばかりの村がどこか明るくなっていた。 ここに来た頃は、この村をよみがえらせるなんて絶対に無理なことだと思ってたけど、この分ならなんとかなるかもしれないって気がして来た。 井戸が出来ただけでも、ここの暮らしは格段に楽になったのだから。 でも、僕は一生この村に住む気はない。 母さんがここに残りたいって言うのなら仕方ないけど、僕はここの目鼻がついたら村に帰るつもりだ。 そうなれるまでにはまだ当分はかかるだろうけど…
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