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口の広いマグカップの中には、湯気の立つ白いミルク。注文を間違えたのかと思ったら、その脇に固形のチョコレートが添えてある。心愛の前にあるのは薄茶色、鬼束のは焦げ茶色のチョコだ。アイスキャンディーみたいに、木の棒が刺さっている。
「見て見て、鬼に金棒」
棒付きのチョコを顔の横に掲げて、鬼束がおどける。心愛はくだらない冗談を見なかったことにして、自分のチョコをそっとミルクに浸した。渦巻きを描きながらかき混ぜると、だんだんチョコが溶けて、小さな泡を浮かべた白がまろやかな茶色に染まってゆく。それを見ているのに飽きた心愛がスマホをタップすると、その画面を男の手が覆い隠した。
「せっかくふたりでいるんだからお話しようよ。君、ほんとスマホ依存症だね」
目を上げた心愛を覗き込むようにして、首を傾げた鬼束が笑っている。サークルの先輩だというだけで、母親みたいなことを言わないでほしい。
「別に……もう電車の中じゃないんだから、いいじゃないですか」
さっき電車の中で、車両の端の壁にもたれてスマホをいじっていた心愛は、彼に注意されたのだ。優先席の近くで使ったらダメだよ、と。周りの人の視線が一斉に自分に向いて、とても恥ずかしかった。
「だいたい、あのとき座ってた人たち、どう見ても病人じゃなかったでしょう?」
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