さよなら

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さよなら

 祥子が施設内の自室に戻ると、ベッドのサイドテーブルに何かが置いてあった。近づいてみたらそれは素焼きのカップで、中には湯気を立てたホットミルクが入っている。カップの脇には、木の棒のついたチョコレートが添えられていた。 (ホットチョコレートね、懐かしい……)  ここもカカオの産出国だ。祥子はこの国に来たばかりの頃、滞在していたホテルでこういうホットチョコレートを飲んだことがある。ココア粉末を溶かすよりも、ココアバターたっぷりのチョコレートを溶かす方がこっくりと濃厚な味がして、富裕層に人気があると聞いた。  この施設に来てからというもの、毎日の仕事に忙殺されて、そんな贅沢な飲み物をゆっくり飲む余裕もなかったけれど。  素敵な差し入れは誰からだろう。  祥子は軋むベッドに腰掛けて、チョコレートをミルクの海に沈めた。半分溶けた頃合いで一口飲むと、ふくよかな香りと優しい甘さが疲れた身体に染み渡る。  祥子は目を閉じて、大きく息を吐いた。  国際ボランティアを始めて肝に銘じたことは、自分にできることをするしかないということだ。政府や国際機関に憤りをぶつけても、理不尽はなくならない。酷暑と肉体労働、そして少女たちの苦痛や傷に直面するつらさ。やりがいはあるけれど、若くはない身体と精神に疲労が溜まっていた。
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