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ショコラ
お母さん、大好きだよ。
お母さんにも私を、大好きでいてほしかった。
誰かの大好きになりたかった。
「伝わらないかもしれないけど……それならそれで、別にいいから」
心愛は不貞腐れたような顔でつぶやいた。最後だと分かっていても、素直な気持ちをそのまま文字にすることなどできない。ネットで見つけた暗号の意味に、母は気づいてくれるだろうか。
「伝わるといいね」
鬼束が目を細め、心愛の頭をふわりと撫でた。
「あなたは、誰にメッセージを届けますか?」
男の子が鬼束に水を向ける。同じ電車に乗っていた彼も、人生を突然シャットダウンされたのだ。その事実に改めて気づき、心愛は胸が痛んだ。将来に夢も希望もない自分と違い、彼は建築士になるために勉強していると言っていたのに。
心愛が見上げると、鬼束は穏やかに微笑んで男の子に答えた。
「僕はいいんだ。メッセージを伝えたい人はもうこの世にいないし、自分の口で言うから」
彼はおもむろに席を立ち、テーブルを回り込むと、後ろから心愛を優しく抱きしめた。
「大好きだよ。守ってあげられなくてごめん」
心愛の目から、涙が一粒こぼれた。
自分が待ち合わせに遅れなければ、一本早い電車に乗れたのに。優先席から離れたところにいれば、助かったかもしれないのに。それを責めない彼の気持ちに、胸が詰まる。
「ごめんなさい……ありがとう」
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