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鬼束が腕をほどくと、心愛は両手でカップを持ち上げた。最後にホットチョコレートを一口含み、こくりと飲み込む。喉を通って胸を温めたそれは、涙と混ざって甘じょっぱい味がした。
静かに立ち上がって、心愛はそっと隣の大きな手をとった。
「行こうか」
エスコートするようにその手を持ち上げられ、心がくすぐったくなる。ふたりは見送る男の子にあいさつすると、同じ歩幅でゆっくり歩き、店のドアを開けた。
シャラララン
吹き込んだ木枯らしが、すずらんを模したドアベルを鳴らす。心愛は思わず肩を竦めたけれど、少しも寒くない。それでも、鬼束と繋いだ左手は、しっかりと温かかった。
【了】
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