ココア

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 鬼束に誘われて入った店だ。ホットチョコレートを飲んだら、あの高そうなチョコレートもいくつか味見できるかな、そう考えていたら。 「あの子、10歳くらいかな。しっかりしてるね」  鬼束が少し声をひそめてそう言った。 「うちの母親なら、児童労働とか子どもの権利とか、うるさく言いそう」 「お母さん、そういうの詳しいんだ?」 「詳しいっていうか、うるさいんです。人権とか平等とか。かぶいてるから」 「かぶいてる? かぶれてるじゃなくて?」  めんどくさいなぁと思いながら、心愛はスマホで「かぶく」を検索してその画面を鬼束に見せた。 「偏ってるってこと?」  言葉の意味を目で追った鬼束が、首を傾げる。 「頭のネジ外れてるんです。自腹でアフリカ行って奉仕活動するような女だし」 「ボランティアかぁ、良いことじゃない?」  いかにも他人事らしい反応にイラッとする。心愛はスマホで暇つぶしのゲームアプリを開いた。 「赤の他人の人権のために夫と4歳の娘を捨てたのって、良いことですかね」  冷ややかに吐き捨てた心愛と鬼束の間に、白い湯気がふわりと立った。目を上げると、店員の男の子がトレイからテーブルにマグカップを移している。 「どうぞごゆっくり」  そう言って、彼は音もなくカウンターの向こうに下がった。
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