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携帯電話の電波が医療機器に影響を及ぼすことくらい、心愛も知っている。でも、他の人たちだってみんな使っていたし、健康なのに優先席に座っている人たちに遠慮する必要なんてないと思った。
「ペースメーカー入れてる人って、見た目では分からないんだよ。でも、人前で注意しちゃってごめんね。君と話したかったから、つい」
どうして彼は、こんなに気負いなく謝れるんだろう。自分が悪いと分かっていても、そういうときほど余計に、心愛は素直に謝ることができない。
「さっきの話だけどさ、君のお母さんてお医者さんとかなの?」
その話を蒸し返すのかと、心愛は意外に感じた。大抵の人は、立ち入ったことを聞いてしまったと気まずそうに話をそらすのに。
「ただの事務員です。学生の頃からボランティア活動してて、父親ともそれが縁で知り合ったらしいんですけど。まさかあの父親も、結婚して子どもが生まれてまでボランティアを優先するような女だとは思わなかったんでしょうね」
先輩も結婚相手は気をつけて選んでくださいね、そう続けようとして、余計なことだと口を噤んだ。
「きょうだいはいないの?」
「4歳の時から父親とふたり暮らしです。母親は何年かに一度会いにきますけど、父親がなんで会ってあげるのか謎ですね。向こうは好きにやってるんだから、こっちも好きにしたらいいのに」
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