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心愛も小さい頃は、母親が会いにきてくれるのを楽しみにしていた。仕事で海外に行っていると聞かされていたからだ。両親が既に離婚していて、自分は母親に捨てられたのだと知った時には、悔しくて悲しくて何日も泣いた。
「お母さんは私よりもボランティアの方が大事なの?」
否定してほしくてそう聞いたのは10歳のとき。母親は困ったように微笑んで、心愛の髪を撫でながら答えた。
「心愛にはお父さんがいて、おじいちゃんもおばあちゃんもいる。でも世界には、恵まれない子どもがたくさんいるの。家族がいなかったり、食べるものがなくていつもお腹を空かせていたり、学校にも行かせてもらえずに働かされてる子が、本当にたくさんいるのよ。誰かが助けてあげなきゃいけないの、分かるでしょう?」
分かるけれど、分からなかった。お母さんにとっては、自分の娘よりも恵まれない子どもたちの方が大事だってことなのか。恵まれている自分が母親にもそばにいてほしいと願うのは、わがままなのか。
頭が悪いと思われたくなくて黙りこんだ心愛に、母親はため息をついた。
「心愛にはまだ、難しいかな」
19歳になった今でも分からない。わがままなのは母親なのか、自分なのか。誰にも聞けないまま、心愛の胸には不満ばかりがどんどん膨らんで、聞き分けはいいけれど可愛げのない娘に成長してしまった。
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