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無意識にかき回していた手を止め、チョコがとれた棒をソーサーに置くと、心愛はできたてのホットチョコレートを一口飲んだ。
それはささくれ立った心をしっとりと包むような、まるく優しい味がした。一口飲むごとに、胸からお腹、そこから全身に熱が伝わる。冷えた指先までほんのりと温まり、ホッと身体の力を抜いた心愛に、鬼束が微笑みかけた。
「猫がいるよ、ここ」
その指先を見ると、ソーサーに置いた棒の先に猫の絵が描いてある。ベージュの木肌に焼き付けたような焦げ茶色の猫が、つんとすまして座っていた。
「僕のはほら、歩いてる」
鬼束が棒を垂直に立て、横向きにデザインされた猫がテーブルを歩いているみたいにちょこちょこと動かした。
「その棒に、お好きなメッセージを刻印してプレゼントできますよ」
柔らかな声に振り向くと、いつの間にそこにいたのか、男の子がテーブルの横でにっこり笑っている。
「何かを伝えたい方、いらっしゃいませんか?」
メッセージを伝えたい相手。そう言われて、頭に浮かんだのは母親の顔だ。でも、アフリカまでどうやって行けというのだろう。
「お届けもできますよ」
心愛の心を見透かしたように、男の子が付け足す。
「無理……だって、住所も分かんないし」
「大丈夫です、お任せください」
にこにこと微笑む彼の翠色の瞳を見ていたら、不思議とそんな気になってきた。
でも、あの人に伝えたいことなんて……
何を言っても、慈愛と正論で諭してくるような母親だ。話の通じない彼女に、気持ちを伝えるのを諦めたのはいつからだろう。
心愛は少し考えてからスマホを素早く操作して、呼び出した画像を男の子に見せた。
「こういう、英数字も書ける?」
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