【 従者と少女 】

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      * * * * 陽の光に透けて輝く、柔らかで美しい髪。 緩くウェーブを描くそれに櫛を通しながら、従者はチラリと主人の横顔を見た。 宝石を填めたような翡翠の瞳は僅かに伏せられ、長い睫毛が影を落としている。 口紅の必要のない唇は常に潤っており、今はそっとティーカップに触れていた。 精巧な人形のような、美しき主人(ひと)。 「……そんなにじっと見つめられると、紅茶が飲めないわ。ヴィー」 ヴィンスの手から結い途中の黄金色が滑り落ち、大きな翡翠の瞳が彼を見上げる。 しなやかな指先が漆黒の髪に触れ、柔らかく撫ぜて。最後に、彼のために特注で作られた上等な服の首元に触れた。 「ヴィー、教えて。なにを心配しているの?」 服の下に隠されたものの存在を、確認するような。 そして、彼に所有者(あるじ)は誰なのかを教え込むときと、同じ動き。 心の奥、隠した感情まで暴いてしまうような澄んだ翡翠に覗き込まれ、ヴィンスは重い口を開く。 「今日はアバーライン家の方々がいらっしゃいます。当主のエイフラム様と、御子息のハリス様です」 「ええ。聞いているわ。……もしかして、心配してくれているのかしら」 主人の言葉に、従者は少しの間の後、微かに頷いた。 このレインスワーズ家の別荘は深い森の奥にある。 本家は別にあり、ここには屋敷の主人であるミアと、その従者であるヴィンス。それから数人の使用人しかいない。 レインスワーズ家は伯爵の地位を頂いており、その関係で家を訪れる者はいるが、通常、そういったことは本家で完結しており、別荘まで足を運ぶ者はいなかった。 ──しかし、別荘を訪れる者がない訳ではない。 伯爵の地位を持つレインスワーズ家の秘された存在。 森の奥深くに数名の従者のみと暮らす、謎に包まれた、しかし世にも美しき少女。 そんなミアに興味を持ち、この屋敷を訪れる者は確かにいた。      
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