私が泣いた理由

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『私が泣いた理由。それは、ガラスのくつが入らなかったからです。私はぶとう会が終わってしまったのが悲しくて、そのあと家でヤケ食いをして太ってしまったので足が大きくなってくつが入りませんでした』 「う、うん……まあ、そういう可能性もなくはないとは思うけど……」  おかしい。真面目系男子なたくや君の原稿なのに、なんでいきなり斜め上にカッ飛んでいるのだろうか。確かに私が出したお題では“硝子の靴を履いた時”ではなくて“硝子の靴を持った王子様が現れた時”であるので、硝子の靴がきちんと履けたとはまったく言っていなかったわけではあるが。  たくや君の原稿には、隅っこに追記で“理由。そもそも王子様はちょっと前におどったばっかりの初恋の相手の顔を覚えてないとかおかしいと思います。覚えていたのにわからなかったとしたら、それがわからないくらシンデレラがデブになっちゃってた可能性が高いのではないでしょうか”と書かれていた。確かに、と思わず唸る私。いくら魔法が解けたとはいえ、顔くらい覚えておけよ王子、と言わざるをえない。  よっぽど会場が暗かったんだろうか。そんな馬鹿な。
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