私が泣いた理由

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私が泣いた理由

 情操教育、というものはとても大事だ。  道徳の時間に、子供達の共感性や思いやりの心を育てる授業を行うのはとても大切なことだと教師である私は思っている。一部の親御さんなどには“そんな授業はやっても無駄だ”なんて意見もあるらしいが、私は全くそうは思わない。  誰かの気持ちを想像して、相手の立場になって考えることは大切だ。  大人になって力を持つようになった時、そういうものを理解できないと社会で大きな問題を起こしてしまったり、迷惑をかけてしまうことになる。本人が理解されずに辛い想いをすることもあるだろう。そういうことが少しでもなくなるように、一人の先生として生徒達には相手の気持ちがわかる人間に育ってほしいと考えるのである。  そんなわけで、先日行った道徳の授業。それは、シンデレラをモチーフにしたものだった。 「シンデレラは、ガラスの靴を持った王子様が現われた時、思わず泣いてしまいました。どうして泣いてしまったのでしょう?みんなはシンデレラになりきってその気持ちを作文にしてみてください。タイトルは、“私が泣いた理由”です」  私=シンデレラはどうして泣いたのか。その気持ちを想像して、いろんな可能性を模索すること。それにより、子供達の共感能力や思いやりの心を育てようという魂胆である。  クラスの子供達が書いた作文を、私は回収したその日のうちに職員室で添削することにした。明日には返却したいので、作業は急がなくてはいけない。元気で明るいうちの天使達は何を書いてくれたのかな?とわくわくしながら原稿用紙を広げてみたのだが。
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