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二人が将軍に似ているから、と言ったのは嘘ではない。
実際、息子のハリーは外見がよく似ていたし、娘のフロリアーナはその硬質な雰囲気と頑固な性格が、いじらしくなるくらい父譲りなのだ。
でも、それだけが理由ではなく、同じ屋根の下に、両親から見放された状態の幼い子どもがいるということに耐えられなかったのだ。
杏奈がいじめられて苦しかった時に、両親は気付いてくれたし、近所の大人は直接手を差し伸べてくれた。
同じようにはできなくても、頼りにならない大人ばかりではない、少しは期待してもいいんだよ、ということを知ってほしい。
防犯優先で整備された無機質な庭で所在なさげにしている兄妹を見た時に、杏奈の心にはその思いが自然と浮かんだのだった。
惜しみなく愛情を注ぐ杏奈に子どもたちが心を許すのは早かった。
今ではすっかり本当の母子のよう……いや、それ以上に仲が良い。
将軍家の外向きはジュリアが、内向きは杏奈がと、お互いの役割を侵犯せずに分担するようにもなり、意外にも正妻と側室の仲は良好だ。
小さかった二人が成長し、今年から学園に入学したフロリアーナも学園敷地内の貴族専用寮に入ってしまった。
なので、こうして週末や長期休暇に帰宅する日は、杏奈は朝からソワソワと待っているのだった。
「そういえば、アンナお母様。この前途中入学してきた子が、ちょっと変わっているの」
「あら、どういうふうに?」
ようやくハグを緩めた腕の間から、満足そうに、ぷは、と息を吐いて顔を出したフロリアーナが上目遣いに話し始める。
綺麗ではあるが冷たい印象を与えてしまう顔立ちのフロリアーナは、それが元で友人とトラブルになることが多かった。
違うのに、と泣きじゃくるフロリアーナを慰め、アドバイスをし、最近はそういったいざこざも聞かなくなったのだが。
その時のあれこれが過ぎって眉を下げた杏奈に、兄妹は苦笑する。
「わたしを指さして『悪役令嬢!』とか叫ぶのよ」
「え、なにそれ?」
「さあ、さっぱりです。俺に向かっても『なんで敬語メガネ? 筋肉バカのはずなのに!』とか、意味がわからないことを」
「確かに意味がわからないけれど……失礼ね」
可愛い娘と息子が言いがかりをつけられていると聞いて、ぷんと膨れる杏奈の両腕を兄妹それぞれが左右で組む。
「ハリーもフロリアーナも、自慢の子なんだから!」
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