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「うふふ、アンナお母様はきっとそう言うって思っていました。ね、お兄様?」
「ええ。どこからか耳に入って心配をかけてはいけないと思って、先に報告したまでです。対処は考えていますので」
「ほかに楽しいお話がいっぱいあるの。お茶にしましょう、アンナお母様」
そう言って、居間へ行こうとしたその時。兄妹の手からさっと杏奈の腕が抜ける。
「きゃっ?」
「アンナはこっちだ」
「お父様、いらしたの」
「……ずっといたぞ」
後ろから攫われる格好で横抱きにされた杏奈は、驚きつつも嬉し気に将軍の首へと両手を回す。
今は自分たちの時間だったのに、大人げない、と呆れる子どもたちの声は、相変わらずの強面で一蹴された。
「今アンナは大事な時期だ。お前たちに付き合わせて疲れさせられない」
「もう、あなたってば。つわりも治まったから大丈夫なのに」
将軍は杏奈の顔と、まだ平らな腹部を愛おしそうに見つめる。
結婚して何年もたった今になって、杏奈は将軍との間に初めての子を宿していた。
それが分かったときの将軍の取り乱しようは過去になく、しばらくは軍の指令系統にも影響がでたほどだったのは公然の秘密だ。
お前も人の子だったのだな、という王と宰相の呟きが全てを表している。
「ふふ、居間まで運んでくれますか?」
「……ああ」
本当は自室で休ませたかったのだろう。
しぶしぶ頷く将軍のむすっとした頬に唇を寄せれば、ほんのりと赤くなったのが愛しくて、杏奈はよりいっそうぴったりと身体をくっつける。
相変わらずのイチャイチャぶりに、子ども達は砂糖を吐きそうなため息を落とした。
「あーあ、またお父様にアンナお母様を取られちゃった」
「フロリアーナ、明日は父上も出勤だ。今日のところは譲るとしよう」
――理想の旦那様に、可愛い子どもたち。それにお腹には赤ちゃん。
異世界トリップしたら、こんなふうになるなんて。
こっそりと将軍の耳に唇を寄せる。
「……大好き」
「くっ、アンナ……!」
愛する人のたくましい腕に抱かれながら、杏奈はもう一度キスを贈ったのだった。
・・・・・
『異世界トリップしたら側室になった私のはなし』本編 END
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