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こどもたちのはなし・2
しばらく、いや、もしかしたら今後一度も会うことがないだろうと思った「父の二人目の妻」との面会の場は、予想外に早くやってきた。
「ハリー、フロリアーナ。こちらが、ア……アンナだ」
「杏奈です、はじめまして。もう、旦那様、そろそろ呼び慣れてください」
「いや、そうは言うが」
「……昨夜はあんなに呼んでくださったのに」
「うっく、ご、ごほんっ、そ、それは、」
しどろもどろになる父を初めて見たハリーとフロリアーナは、驚きを隠せなかった。
アンナ、と二人目の妻の名を口にしたときに、いささか言いにくそうにしたのは、もしかして照れているのだろうか?
その証拠に耳の端は赤いし、なにかを誤魔化すように今もしきりに咳ばらいをしている。
いつも不機嫌そうに黙ってばかりの父の、こんな様子は今までに見たことがない。初めて会う側室の女性よりも、珍しすぎる父が気になってしまう。
ハリーはなんとか顔に出さずに堪えているが、フロリアーナは家庭教師の教えも忘れてポカーンだ。ミス・リードに見られたらどんなお説教がくるかわからない。
さらに咳払いで口元の緩みを誤魔化したらしい父が、ようやく子どもたちへ話を続ける。
「ア、アンナが、お前たちに会いたいと言ってだな」
「ええ、私のお願いをこんなに早く叶えてくださって、ありがとうございます、旦那様」
そう言って、満面の笑みをうっとりと父に向ける杏奈に、二人はさらに目を丸くした。
実の親ながら、ヒューゴ・セレンディアという人は怖い。まず外見が、次いで声と雰囲気が。
話し方もぶっきらぼうで、名前を呼ばれただけで怒られていると感じるほど。
できればあまり会いたくないというのが本音だ。
それなのに、この華奢な女性は臆することなく甘やかな目を向けている。
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