こどもたちのはなし・3

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 非常にやりにくそうにしていたミス・リードだったが、しかめっ面で険のある表情が減っていくのに、そう日数はかからなかった。  それは、作法練習のためにと始まったお茶の時間のせいなのか、家内に籠りがちだった女史を「課外授業」と称して杏奈が城下へ連れ出すようになったためなのか、兄妹には分からない。  相変わらず授業は厳しく気は抜けない。  しかし、鞭による戒めがなくなったことに加え、ミス・リードが杏奈のアドバイスで明るい色の服を身に着けるようになると、雰囲気も和らいで、勉強の時間を気詰まりに感じなくなった。 「アンナ奥様。私、ハーブティーは特に好まないのですが、こちらは随分飲みやすいですね」 「よかった。私が合わせたミス・リード専用ブレンドだから、気に入ってくれて嬉しいわ」 「まあ、そんな!」 「女性の味方スペシャルです。リラックスできる香りでしょう?」 「ええ、とても」  胸を張る杏奈に、わざわざ自分のために用意したと知ったミス・リードは感動の眼差しを送る。  杏奈の言う「コウネンキショウガイ」は聞いたことがなかったが、不承不承言うことを聞いて食事や生活を変えてみたところ、理由なくイライラすることが減り、気分が落ち着くようになったのも驚きだ。 「そういえば、ミス・リード。この前また贈り物が届いて」 「はい、奥様。返礼にもマナーがございまして……」  茶菓子の皿にはクリームたっぷりのケーキの代わりに、杏奈の好物である新鮮なフルーツが並ぶ。  和やかに社交のあれこれを語る大人の話に耳を傾けながら、同席する二人の子どもは瑞々しい果物を頬張って、穏やかに時間が過ぎるのだった。
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