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風呂を上がってからもグダグダとして、ようやく寝室に入ったのは深夜になってからだった。
寝室の扉を開けると、奥から何かの気配と甘い香りが微かに漂う。
枕元に控えめに灯っているランプの明かり程度では、部屋の隅まで照らせない。
一瞬、侵入者かと身構えたが、殺気などは感じなかった。
「……気のせいか」
使用人が婚儀を祝って飾った花の香りだろうと思い直す。
安全なはずの家の中でさえ気配を探ってしまうのはもう、職業病のようなものだ。
ヒューゴは自嘲を滲ませて洗い髪をガシガシとかき混ぜると、寝台へと横になった。
明かりを絞り、慣れないシーツの肌触りに寝返りを繰り返しつつ、うとうとしだした時。
室内の空気が動いたと同時に軽い足音が近づき、ヒューゴが身を起こすよりも早く、とす、と身体に乗られた。
「誰だっ!?」
「杏奈です。旦那様」
寝入りばなとはいえ不覚を取られたのは、全く害意を感じなかったからだ。それゆえ、声の調子もいささか弱くなったのは否めない。
それでも尋問し慣れた自分の誰何に、怯まずに答える声が女性のものであることに驚きを隠せない。
しかも、今日娶ったばかりの側室だ。
なんとか半身を起こしたものの、細い明かりに浮き上がった杏奈の姿に、それ以上は動けず固まってしまった。
「!?」
結い上げていた黒髪は背中へと流れ落ち、薄いナイトガウンの下はさらに薄い布一枚。胸元や脚はむき出しのまま、体の線も隠しきれていない。
ガンと頭を殴られたような衝撃がヒューゴを襲った。
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