ヒューゴのはなし・3

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 力いっぱいしがみついているようだが、こんな華奢な細腕の一つや二つ解けないわけはない。  だが、少し上ずった甘い声と、思いのほか密度のある柔らかい感触に、つい、されるがままで引き剥がすことができない。  もぞ、と動かれると別のところも触れて密着度がさらに増す。  いろいろと、本気でヤバい。主に理性とか身体面とかが。  現状でさえヒューゴの処理能力は限界寸前なのに、新しい妻は恥じらいながら、さらにとんでもないことを言いだした。 「お慕い申し上げております、旦那様」 「っ、ありえない」  咄嗟にでた言葉は本心だ。  卑下するわけではないが、大の男でさえ怯むような容姿だ。女性の喜ぶことなど何一つ分からないし、気のきいた会話もできない。一般的な女性に好まれる要素など皆無である。  なのに、杏奈は自分のことを「理想」だという。子どもの頃から憧れた王子様だとまで。  ――信じられん。  信じられないが、嘘を言っているようにも思えない。  ヒューゴは、相手の表情を読み、隠しごとを暴く――話す言葉や行動にどういった意図があるのかを察する勘が、強く働くタイプだ。  本能と言ってもいい、この裏を嗅ぎ分ける能力で、これまで平素でも戦場でも危険を回避し、生き延びてきた。  隙を突かれたのは、ジュリアに薬を盛られた二回だけ。  あの時だって、香辛料をきかせた皿にそれとなく混ぜられては、犬にだって嗅ぎ分けられない。  二度目の時に至っては、僻地での抗争から戻ってきて足の怪我で動けないところを狙われた。  だが、どちらの時もなにか企んでいるということくらいは見破っていた。  最終的に薬効に従ったのは、跡取りを作らないことへの後ろめたさと、薬で力の加減ができなくなっている自分が、無理に拒否して怪我でもさせたらと怯んだのが理由だ。  義務でも保身でもなく、ただ好きなのだと、ヒューゴにも誤解しようのない率直な言葉を、杏奈は何度も繰り返す。  怪我をした過去に自分がいないことまで悔しがるその声も瞳も、全身で好意を伝えている。怯えも媚もない。  自分の目と勘が狂っているのでなければ、全ては本心からだ。
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