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それに、いいところのお嬢様らしくワガママなところはあるが、クリスティーナはそのぶん素直で純真な娘だった。
何くれとなく世話を焼いてくれたり、姉ができたようだと逆に甘えてきたり……この世界での一番最初からずっとそばにいた彼女は、杏奈にとって友人でもあり、妹のようにも感じる相手になっていた。
その彼女には思い合う相手がいて、来年の婚礼を今から楽しみにしている。
婚約者のジェレミーにも会ったことがあるが、華奢な長身のキラキラした王子様風イマドキ男子で、可憐なクリスティーナと非常にお似合いだった。
伯爵は杏奈の身上について奔走してくれたし、伯爵夫人も『私を第二の母と思って』などと言って目をかけてくれた。
王命には逆らえないが、本心では娘の幸せな結婚を望んでいる。そんな彼らに同情しないわけがない。
それに、杏奈の抱いていた、結婚に対しての夢や希望は、異世界トリップにより、一度すっかり崩れ去ってしまっていた。
そんなことが重なって、見も知らぬ相手、しかも側室……自分の理想を諦めつつも引き受けることにしたのだった。
だが、言い渋る伯爵からクリスティーナが聞き出した情報によると、どうやら相手の容姿は杏奈の好みに合致する。
それならば、話はまた違ってくるではないか。
将軍の伴侶としての社交や家の采配に自信はないが、それらは気位の高い正妻が引き受けたまま、側室ごときに譲るつもりはないらしい。願ってもない、大助かりだ。
そんな結婚、断る理由がない。まったく、これっぽっちも。
「……でも、そんなアンナが大好きよ。義妹として幸せを祈っているわ」
「私も、クリスティーナ様の幸せを祈っています」
「アンナ……!」
自ら戦地に赴き、何度も勝利を導いたその体には数えきれない傷痕がある。
戦に関しては超一流。冷酷非道で敵に一切容赦がない。
それが、ヒューゴ・セレンディア――視線だけで人を殺せる、と言われる現将軍閣下であった。
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