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その鍵を、杏奈は見せつけるように胸の間から取り出す。
「これに関しては永久貸与だと仰って、ジュリア様は快く」
「いや、だが」
「だってこうでもしないと、旦那様は私をいないことにするおつもりでしょう?」
「……不本意な結婚だろう。バカバカしい茶番だが、政治上必要なことも分かっている。だからこそ、君には自由を、」
「優しい旦那様。ですから私、自由にさせていただきます」
そう言うと、杏奈は将軍の太い首に両手を回してぎゅっと抱き着いた。
――ほんと、優しい。好みの顔な上に性格までいいって、一体どんなご褒美?!
もう、ぜったい離さないんだから!
頼もしく重量感のある体は小娘のタックル程度じゃピクリとも動かなくて、ますます杏奈の胸にときめきが積もる。
「お慕い申し上げております、旦那様」
「っ、ありえない」
「お疑いですか? 私もまだ信じられないのです。まさか旦那様のような、理想そのものの人と結婚できるなんて」
「り、理想?」
「はい。旦那様は、私が子どもの頃から憧れた王子様です」
夢を見ているみたい、と耳元で囁く甘い声に、ゴクリと将軍の喉が鳴るのが肌越しに伝わった。
「この顔が、理想か」
「お顔もですが、お体も雰囲気も。それに、こうして気遣ってくださるところも」
「歳も上で、傷ばかりの体だ」
しがみついていた腕を緩め、杏奈は顔を上げて彼の額に残る傷痕を見る。
――深い傷。無事でよかった……でも。
切なくなってふっと視線を落とすと、将軍の寝衣の開いた胸元――鎖骨のそばの古傷も目に入る。杏奈は刻まれた痕を指先でそっとなぞった。
将軍の胸筋がピクリと震える。
「……私が手当して差し上げたかった」
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