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第45話 波乱
僕と優香さんは恋結びの宿でゆっくりとしてその日は過ごした。
僕は優香さんとはまだ体を重ねることはしなかった。
ゆっくりとじっくりと。
焦る必要はないと思った。
優香さんは早く関係を進めたそうだったけど。
言い方は悪いかもしれないけど、たぶん慶太との恋のことを新しい恋で上書きしたいのかと思う。
辛い恋を忘れるために。
二人で付き合おうと気持ちを確かめて僕はその日は満たされていた。
僕と優香さんが出会って三日目を迎えた。
今日。
午前中に僕は会社の仲の良い同僚からのメールを受け取ってプライベートの相談にのっていた。
何度かメールでやり取りをしていた。
優香さんは宿の主のおばあちゃんとお茶をするといってさっき出掛けた。
近くの寺の境内にあるおばあちゃんの行きつけのカフェで美味しい抹茶を飲めると言う。
気持ちが生まれ変わったみたいに嬉しくて新鮮だ。
あとで優香さんを誘ってどこかに行こうかと思っていた。
同僚からメールの次に今度は電話が掛かってきて、僕は携帯電話を持ちながら機嫌よく彼の悩み相談にのっていた。
「デートに行ったら良いじゃないか?」
『一緒に出掛けられるかな〜?』
同僚は社内に好きな子が出来てデートに誘いたいという内容の相談だった。
僕は同僚との電話の会話で喉が乾いてきたので、宿の部屋を歩いて小さな冷蔵庫から炭酸水を出して飲もうとした。
「あっ」
僕はテーブルにちょっとつまずいて優香さんの壁に寄せられていたボストンバッグと僕のリュックに足先が触れた。
「………」
優香さんのバッグの横についているポケットからポトリと紙袋が落ちて、何気なしに拾った僕の目に中身が少し見えてしまった。
『おーい智史? 聞いてんの〜? もしも〜し?』
「悪い。あとで掛け直すわ」
僕は会社の同僚からの電話を切ってからマジマジと手にした物を見つめた。
「…これって。妊娠検査薬って……」
僕の目の前は真っ暗になっていた。
優香さんが妊娠してんのか?
まだ妊娠検査薬のパッケージは開けられてはいなかった。
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