熱帯魚

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 五時間目は数学だった。“五時間目に数学は最悪”と、ただでさえ人気のない教科に、みんなのHPはゼロに近かった。  なのに私は、毎日の数学の時間を待ちわびている。計算問題は得意だったし、公式を使って考える問題も、嫌いじゃない。解けると、ストレスが飛んでいくようにスッキリした。    でも本当は、もっと違う理由がある。 「おまえらー、目を覚ませ。昼寝しようと思ってるだろ」  全くやる気のない空気が充満している教室に、バリトンの声が響く。 「せんせー、この時間の数学は、パワハラです」  一人の男子が、みんなの代弁をする。 「本田、言葉の使い方が間違ってる。ハラスメントは、嫌がらせの事だ。俺は大事な生徒に、嫌がらせはしないぞ」  そんな会話に、少しだけ、教室に楽しい空気が混ざった。 「みんなの気持ちはよーくわかってる。頑張ったら最後の10分、昼寝の時間をやる」 「さすが、(とどろき)先生、神ー」  数学は嫌だと言いながら、みんな先生のことは好きだ。  クラスの神コールに紛れて、私は先生をずっと見ていた。  ダークグレイのTシャツに白いトレーニングパンツ。何気ないそんな服装も、とてもお洒落に見える。   「よし、じゃあ、みんな頑張れよ」  先生の一言で、みんなは諦めたように教科書を開いた。 「須崎君、教科書無いんだよね」 「はい。坂井さんに見せてもらってます」 「そうか。坂井、頼むな」 「はい」  先生は言葉だけではなく、目でも頷いた。それが、特別な合図っぽくてドキドキする。  そんな特別な合図に気をよくした私は、四時間目より丁寧に教科書を開いて、須賀君の方に差し出した。
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