春の目覚め

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春の目覚め

 週末、公園のベンチに腰かけ、ぼんやりと子供たちが遊んでいる姿を見ていた。  僕たち夫婦に子供はいない。妻と結婚して3年になる。お互いに仕事を持ち、結婚してからも妻は仕事をやめなかった。いや、やめられなかったのだったか。だから子供を作るのは、もう少し先にしようと、二人で話し合った。  週末の朝、急に妻がこの春に仕事を辞めると言い出した。僕はなぜ仕事をやめるのかは聞かずに「じゃあ、これからは一緒にいられる時間が増えるね」と笑顔で答えた。妻が仕事をやめるのは喜ばしいことだ。しかし、心から望んでいたのかどうかは、三年前と今では少し変わって来ている。  なんとなく部屋にいられなくなり「タバコを買いに行く」と言って家を出た。すぐに部屋に戻る気になれず、公園で時間をつぶすことにした。  ミサを愛している。  その気持ちに偽りはない。だからと言って、浮気を全くしたことがないかといえば、それは偽りになる。妻への愛とはまったく関係なく、そういうことは、起きるときには起きるものだ。  もちろんそれを正当化するつもりも、ましてミサのせいにするつもりもない。結婚するまでは自分がまさか妻以外の女性と関係を持つなんて想像もしていなかった。互いに仕事を持っているということは、少しずつだが確実に生活のズレが生じてくる。3年という月日の中には、思いもよらない出来事が一度や二度起きるものなのだ。  望むと望まざるに拘わらず。  だがミサが家に入るとなれば、いろいろと清算しなければならない。そう思うと面倒で仕方がなかった。浮気を感づかれたとは思わない。そんなへまはしていない。しかし、ミサは勘のいい女だ。すべてを見透かしたような目で僕を見る。その目が――、怖かった。 「おじさん、ボールとってぇー!」  ボールが僕の足元に転がってきた。小学生くらいの男の子が手を振っている。その後ろにもう少し小さな男の子が首をかしげながらボールを投げる真似をしている。どうやら兄弟のようだ。私はボールを兄と思しき少年に投げであげた。少年はしっかりと両手でボールをキャッチし、僕に礼を言うと、弟と思しき少年に向かって言い放った。 「お前、本当に下手クソだなぁ」  僕はその光景に、デジャブのようなものを感じた。僕も弟と同じようなやり取りをした覚えがある。あれは確か……。 fe568f3e-f929-4479-a2dd-8330216402c3
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